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【ディープテックを追え】テクノロジーで水産養殖を持続可能に

#51 ウミトロン

人口増加と発展途上国の経済発展により水産物需要が高まっている。一方、乱獲や環境変化による資源の枯渇に直面する水産業。このギャップを埋めるべく水産養殖が拡大している。

世界では陸上での養殖も進むが、国内では依然として海上が中心だ。海や風の状況に左右される現状をIoT(モノのインターネット)や人工知能(AI)で効率化に取り組むウミトロン(東京都品川区)。海洋資源が先細る中、テクノロジーで持続可能な水産養殖の確立を目指す。

日本の漁業生産量は減少

水産庁によれば、日本の漁業・養殖業の生産量は1984年の1282万トンをピークに、2018年は442万トンまで減少した。特に漁業生産の減少は顕著だ。各国の需要増に加え、水産資源の枯渇も原因の一つだ。

その切り札になるのが養殖だ。実際、アジアやアフリカでは養殖による生産量が増加している。ただ、日本国内の海面養殖の年間収穫量は約100万トンと安定。世界のトレンドとは異なり、横ばいが続く。ネックになるのが、エサ代などの生産資材代が原価の6~7割とされる高コスト体質に加え、赤潮などの自然災害のリスクが多い点だ。

エサやりを自動化

「UMITRON CELL(ウミトロンセル)」

ウミトロンが開発したのは、高さと奥行きが1メートル強、幅80センチメートルほどの装置「UMITRON CELL(ウミトロンセル)」。魚へのエサやりを遠隔、自動化する給餌器だ。

取り付けたカメラで魚の様子を撮影する。内部のコンピューターで魚の様子を分析し、最適なエサやりのタイミングや量を生産者のスマートフォンなどに通知する。カメラとコンピューターの電源は装置の上部に取り付けた太陽光パネルで確保する。

ウミトロンセルで撮影した映像はスマートフォンでも確認できる

装置に搭載したAIが魚の遊泳行動などから、食欲を3段階で判断。生産者はそのデータを基にエサやりを続けるかどうかを操作する。同社は、魚が食べないエサを減らすことで原価低減を目指す。不要なえさを防ぐことで赤潮などの海洋汚染も防ぐ。

また、これまでは生産者がエサやりのために何度もいけすに足を運ばなければいけなかった。遠隔操作できる点を活かし、生産者の働き方改革にも役立てる。「休みを取ることができるようになった」「何度もいけすに行かなくて済むようになった」など、生産者からは原価低減以外のメリットも寄せられているという。

同社によれば、ウミトロンセルを使い育てたマダイでエサの量を2割減らしつつ、生育期間を通常の1年から10カ月に短縮できた。実際に使われる魚はマダイが多いが、同社の給餌器とパレット上のエサを使えれば魚の種類は問わない。

その他の課題にも注力

開発中の「UMITRON LENS(ウミトロンレンズ)」
衛星情報を活用したサービス。海面水温などを把握できる

エサやり以外にも注力する。開発中である、電子端末からいけすの中の魚の大きさを把握できる「UMITRON LENS(ウミトロンレンズ)」はその一例。カメラで撮影した魚の様子から、AIが体長や体重を割り出す。いけすから取り出した魚を手作業で測る必要がなくなるため、生産者の負担軽減につながる。今後は現場での検証を進め、製品のブラッシュアップしていく。

そのほか、人工衛星の情報から海水温や塩分濃度など魚の生育環境に必要なデータを提供する。今後はウミトロンセルやレンズから、水産養殖に関わるデータを収集。データを基に生産性の高い養殖モデルを提案していきたいという。

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小林健人
小林健人 KobayashiKento 経済部 記者
水産養殖といってもシステマチックなものではなく、自然との共存が必須です。ただ、分析すればいいというものではなく、その分析をいかに反映させるかも重要です。同社のソリューションは現実にフィードバックする部分まで備えている点に好感を覚えます。

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