【ディープテックを追え】“排泄物”も生かす、アクアポニックスとは?
水産養殖と水耕栽培を両立する「アクアポニックス」。養殖する魚のふんだけでなく、水までも循環させる農業だ。プラントフォーム(新潟県長岡市)は、この農法を普及させ、持続可能な農業の実現を目指す。
環境負荷を減らす農業
プラントフォームが運営する農園は、JR長岡駅から車で15分のところにある。広さは約1000平方メートルで、ここでアクアポニックスに取り組んでいる。具体的には、魚の排泄物を含んだ水をバクテリアが栄養素に分解し、その水を野菜が栄養として吸収することで水を浄化する。浄化された水は、再び魚を養殖する水槽に戻し循環させる。化学肥料を使わず、排水も少なくできるため、環境負荷を減らせるという。
メリットは環境負荷の低さだけではない。魚のふんを野菜の肥料として使うことで、肥料コストを減らせる効果もある。現在はキャビアで知られるチョウザメを3ー7年かけて育てつつ、同時にレタスなどを水耕栽培しており、これらを販売して収益を得る考えだ。
既存の植物工場にも優位性
近年、遊休地では発光ダイオード(LED)を使った植物工場が普及しているが、山本祐二最高経営責任者(CEO)は「植物工場は売買価格がある程度決まっており、施設規模の勝負になっている」と話す。アクアポニックスであれば化学肥料を使わずに栽培でき、オーガニックな野菜として付加価値を出すことができるという。また、屋内で栽培するため、安定生産が期待できる。
今後目指すのは、アクアポニックスのノウハウを広げ、参入事業者の数を増やすこと。自社で運営する施設のノウハウを生かし、参入するための技術支援を行う意向だ。魚を育てる水槽の水温や水素イオン指数(pH)、野菜工場での室温などを同時に管理できる知見や技術を提供する。
現在でも植物工場で使えるソフトウエアはあるが、アクアポニックス専用の製品はない。将来的にはセンサーなどで計測したデータを解析するソフトウエアを開発し、魚と野菜の生育環境を“見える化”することで事業の参入障壁を下げる考えだ。
普及に向けて協業を加速
普及に向けて、水処理大手のメタウォーターやテツゲン(東京都千代田区)と協業することで合意した。岩手県大船渡市に2000平方メートルのアクアポニックス施設を建設し、22年10月からチョウザメやレタスを出荷する計画。プラントフォームとしては、協業先の工場の遊休地や工場から出る排熱を活用することで、アクアポニックスのコスト削減と環境負荷低減の効果を高める狙いがある。また、地域の雇用創出に貢献する側面もある。
並行して、水耕栽培と相性の良い魚を研究する。5年以内に少なくとも、100プラントのアクアポニックス施設の展開を目指す。山本CEOは「欧州では有機野菜の市場は伸びている。安定生産できることを生かし、海外市場も狙う」と展望を話す。
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