【ディープテックを追え】常識を覆す半導体メモリー、MRAMとは?

#48 パワースピン

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電子が持つ磁石の性質(スピン)を利用したMRAM(磁気記録式メモリー)。これまでの常識を覆す「不揮発性かつ低消費電力」を実現する半導体メモリーだ。

パワースピン(仙台市青葉区)はMRAM研究をリードしてきた、東北大学からスピンアウトしたスタートアップ。世界の最先端を行く技術で、エレクトロニクスのゲームチェンジを狙う。

MRAMとは

電子は電荷のほかに、磁石の性質も併せ持つが、通常のCPUやメモリーでは電荷の性質のみを使い、データを保持している。そのため、電源を落としてしまうとデータが消えてしまう。計算をしながらデータを保持するには、常に通電させる必要があり、動作していない時にも待機電力がかかっていた。また、電源を供給しなくてもデータを保持するハードディスクなどにデータを移動させる電力も必要だった。

一方、MRAMは「スピントロニクス」という技術を採用し、磁石の性質でデータを保持させる。反発し合うS極とN極に「0か1」のデータを割り当てる。通電しなくても不発揮性を実現し、消費電力を減らせる仕組みだ。

DRAMとMRAMの違い

通常のプロセッサは演算を行うロジック部とデータを保持するメモリー部が分離しているが、パワースピンの開発するスピントロニクスプロセッサはロジック部とメモリー部を融合することで省電力と演算性を確保した。計算を行う時にのみ通電することで、データ保持のための待機電力を減らす。既存のプロセッサよりも、少なくとも10分の1の低電力を実現できるという。低電力で稼働できるため、機器の発熱を避けるために抑制していた演算能力を向上させることができる。これまでのプロセッサが抱えていた「演算能力と消費電力」のトレードオフを解消することが可能だ。

同社が設計するスピントロニクスプロセッサの概略

スピントロニクスのアームのポジションを狙う

「我々が目指すのは、イギリスのアームのようなポジションだ」。遠藤哲郎最高技術責任者(CTO)は自社のビジネスモデルをこう話す。巨額の投資を必要とする半導体業界は水平分業が進んでおり、開発のみを行う米エヌビディアやクアルコム、製造のみを担う台湾のTSMCなどプレーヤーが確立している。これらの会社が工程ごとに事業を展開することで、投資の負荷を減らし、半導体製品の世代交代の早さに対応している。

遠藤CTO(同社提供)

アームは半導体回路の設計を行い、この設計図を他社にライセンスすることで収益を上げている。また、最終製品からも生産個数に応じてロイヤルティー収益を得る。実際、スマートフォンなどのハイテク製品から産業機器向けの組み込み製品など、数多くの最終製品にアームモデルのプロセッサが採用されている。

パワースピンはアームと同様に、スピントロニクスプロセッサの設計図をライセンスする計画だ。当面はキャッシュメモリーとして使われるSRAMの代替としての利用を狙う。遠藤CTOは「ハイテク製品向けは価格よりも性能が重視される。高価格でも十分商機はある」と説明する。将来はより広く使われるDRAMの置き換えも想定する。

事業化にアクセル

2021年11月にはジャフコグループなどから7億円の資金調達を実施。ジャフコグループの担当者、三浦研吾氏は「社会的インパクトの大きい技術で、事業化に向けた特許のポートフォリオも強い」と同社の強みを話す。調達した資金で回路設計技術者の採用などを行う方針。近く東京都にも拠点を構える。福田悦生最高戦略責任者(CSO)は「このビジネスモデルは利益率が高い。売り上げさえ立てば、上場まで持っていける」と自信を口にする。

高度に情報化した現代において、半導体の性能はあらゆるシステムの質を決める部材だ。今後、さらに情報処理量が増加すれば、電気使用量が増えるのは間違いない。これまで微細化が半導体開発の進化を担ってきたが、脱炭素社会が進む中、省エネルギーは重要な差別化の要素になる。

MRAMはソニーグループやキオクシアホールディングス(旧東芝メモリホールディングス)などの国内勢に、TSMCや韓国のサムスン電子、米インテルなども研究開発を進める。今後の演算能力と省エネルギーを両立するためのキー技術の一つだ。

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COMMENT

小林健人
デジタルメディア局DX編集部
記者

日本から最先端メモリーの技術スタートアップが出てくることは、非常に感慨深いものがあります。生産では他国の後塵を拝しているとも言えますが、東北大学を中心に先端研究は残っています。特にロジックとメモリーを融合させる技術は実に革新的であります。従来シリコンに磁石の主成分である鉄が混在することはあり得ません。同社のすごみはまさにこの点です。SRAMやDRAMの置き換えが進むか期待です。

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