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化学農薬半減「50年では遅い」、料理評論家の服部幸應さんが鳴らす警鐘

農林水産省は持続可能な日本の農林水産業を目指して「みどりの食料システム戦略」を策定した。2050年までに化学農薬を半減するなど「低農薬への転換」を掲げた。食品の残留農薬を懸念してきた料理評論家の服部幸應氏(服部栄養専門学校校長)は一定の評価はするが、「50年では遅い」と指摘する。低コストばかりを追求すると「世界から取り残される」と警鐘を鳴らす服部氏に課題などを聞いた。(編集委員・松木喬)

みどりの食料システム戦略は地球温暖化や自然災害、ESG(環境・社会・企業統治)といった社会的な潮流も踏まえて、長期視点から食料の安定供給への対策をまとめた。

柱の一つが低農薬化だ。50年までに化学農薬の使用量(環境や生物へのリスク換算)を50%削減し、化学肥料も使用量を30%減らす。そして耕作地に占める有機農業の面積を0・5%から25%(100万ヘクタール)に拡大する。農水省は目標達成のため飛行ロボット(ドローン)による必要最小限の農薬散布、人工知能(AI)による害虫発見や土壌診断、除草ロボットの活用などを挙げた。

目標設定の背景には、農業分野の環境負荷低減に向けて規制を強める欧米の動向もある。9月の国連総会で菅義偉前首相がみどりの食料システム戦略を世界に向けて発信し、日本の決意を表明した。

インタビュー/料理評論家(服部栄養専門学校校長)・服部幸應氏

―みどりの食料システム戦略に関心を持つ理由を教えて下さい。

「欧州の方が日本食品のおいしさに感激し、輸入したいと言われたことがある。しかし残留農薬が欧州連合(EU)の基準値を超えていて実現できなかった。それで僕は政府関係者に輸出できないのは恥ずかしいと伝えた。しかし、日本の基準はしっかりしていると言う。確かに数値はかなり低いが、EUと比べると数十―数百倍になる。みどりの食料システム戦略は50年を目標にするが、僕は遅すぎると思う。だが、現実的な問題がある」

―現実的な問題とは。

「日本の生産者が減っている。農家は人手を補うために化学肥料と化学農薬を使い、生産性を高めてきた。日本の気候は雑草が生え、害虫がつきやすいため化学農薬などをやめるのは大変な努力が必要となる」

―有機農業の面積を25%にする目標も定めました。

「25%だと100万ヘクタールになるが、まだ低い。現時点でイタリアやフランス、米国は200万ヘクタールあり、中国は300万ヘクタールに広がった。日本政府は30年までに農林水産物・食品の輸出額を5兆円にする目標を持つが、まだ1兆円にも届かない。農薬や肥料の規制を強化する各国が有機農業にシフトすると、日本は世界市場で取り残される。化学合成された食品添加物も多い。日本人は企業を信頼しているが、安全性の情報が消費者まで届いているとはいえない」

―現在も有機農法に取り組む生産者がいます。

「スーパーマーケットの売り場で有機栽培のコーナーは少しだけ。価格が高いからだ。場合によっては置いてもらえない。消費者に直送する生産者もいるけど、輸送代でコストがかかる。流通システムを根本から変えないといけない」

―国連の持続可能な開発目標(SDGs)を意識する消費者が増えています。企業も有機野菜を取り扱いやすくなったのでは。

「だいぶ雰囲気が変わった。しかし日本企業は徹底しないので、有機だけに絞れない。企業も理解はしているが、利益が出ないと動けず、安い物を扱う。社員も消費者であり、一人ひとりが意識を持ち、1歩でも2歩でも変えていくと有機栽培の農地も広がる。脱炭素も同じことが言える。できることから取り組むこと、そしてみんなが同じ意識を持つことが大事だろう。まずは、関心を持つ人が増えてほしい」

「モノづくりも次々と海外に移った。コロナ感染症が流行した当初、マスクは海外生産に頼るため国内で入手が難しかった。人件費が高いという理由があるが、海外に依存しすぎると取り返しがつかなくなる。農作物も同じ。均衡を考えてほしいと政府に訴えてきた」

日刊工業新聞2021年11月12日
松木喬
松木喬 Matsuki Takashi 編集局第二産業部 編集委員
「みどりの食料システム戦略」、残念ながら知っている方が少ないです。まずは認知度アップが必要と思います。そして海外の潮流を知ること。「日本食は安全」と思っていたら、いつの間にか海外の方が説得力のある安全対策を講じている状況かもしれません。日本が自国の優位性を主張したくても、有機農業が「世界常識」となっていては日本の説明は聞いてもらえません。

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