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「早慶」は政府の10兆円ファンドを活用した支援対象に選ばれるか

「年3%成長」への取り組みを検証する

政府の10兆円規模の大学ファンドの支援で気になる点の一つは、私立の研究大学が選ばれるかどうかだ。選抜の目安の一つである収入の「年3%成長」の定義は固まっていないが、私立大は国立大学と異なり、奨学金などの原資となる「3号基本金」の運用実績がある。そこで10兆円ファンドの対象候補と目される慶応義塾大学を運営する慶応義塾と、早稲田大学の収入増に向けた取り組みを検証する。(編集委員・山本佳世子)

私立の学校法人の経営では医学部や病院の存在が大きい。経常収入(国立大の経常収益に相当)のトップ3は、2000億円規模の日本大学を筆頭に順天堂、慶応義塾が続き、それぞれ医学部と病院を持つ。しかし2020年度は新型コロナウイルス感染症の影響が大きく、慶応の山岸広太郎常任理事は「医療収入が計画に比べて減り、国や都からの補助金と寄付金が増えた」と述べ、財務への影響があった点を認めた。

慶応の20年度の経常収入は約1650億円で、09年度比25%増となった。11年間の年平均成長率は2%。伸びが目立つのは同96%増の「寄付金」、同75%増の「付随事業収入」(共同・受託研究)、同35%増の「受取利息・配当金」だ。今後の方針として「これに医療収入と合わせた4本柱を自助努力で伸ばしていく」(山岸常任理事)ことを明確にしている。

一方、早大の経常収入は19年度で約1000億円。経常収入のうち、授業料・入学検定料が7割となっており、医療収入のないことが慶大と収入の差が開く要因となっている。そのため早大は経営努力で増やせる「事業収入」に限定した形で成長を議論している。

事業収入の内訳は「寄付金」「付随事業」「競争的資金の間接経費」「受取利息・配当金」「収益事業など(土地信託含む)」となっている。19年度の事業収入は10年度比66・2%増の185億5000万円。「資産売却の特殊要因を除き、年平均成長率は3・5%」(宮島英昭常任理事)の計算だ。

国立大に比べ私立が経験豊富なのは資産運用の部分だ。いわゆる“最終利益”を、固定資産関連の基金のほか、研究や奨学金に使う運用収益を目的とする「3号基本金」に充てているからだ。

とはいえ、通常はローリスク・ローリターンの国債購入など手堅い運用だ。これに対して早大は18年にミドルリスク・ミドルリターンでの積極運用する基金「エンダウメント」を開始し、23年度から年8%程度のリターンを見込んでいる。

「利益の一部は研究など支出に回す一方、一部は再投資で基金を大きくしていく。このメカニズムを十分に理解する必要がある」と田中愛治総長は強調する。近年、各大学が努力してきた外部資金獲得のノウハウとは異なる新たな戦略と挑戦が研究大学に求められている。

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日刊工業新聞2021年12月2日
山本佳世子
山本佳世子 Yamamoto Kayoko 編集局科学技術部 論説委員兼編集委員
大学経営に接する企業人のメンバーが、しばしば戸惑うのは財務・会計の企業と大学の違いだ。事務方は企業人に説明をして、大学の状況を理解してもらうのに、多大なエネルギーを費やしていると聞く。記者として企業担当もわずか数年の私は今回、取材の対象をごく一部の項目に絞ることで、なんとか切り抜けた状態だ。ちなみに収益の赤字・黒字は、「基本金組み入れ前」「基本金組み入れ後」のそれぞれで表現があるが、企業の最終利益に相当するものとして「基本金組み入れ前の利益」を取り上げるので、基本的には構わないそうだ。

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