世界と肩を並べる研究大学の条件「収入年3%増」の意味、東大の実績から検証する

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政府が国内に世界と肩を並べる研究大学をつくるため新制度を設計中の「世界に伍する研究大学(仮称=特定研究大学)」では、支援対象条件として「収入が年3%増の成長」を掲げる。だが企業とは活動目的も会計制度も異なる国立大学で、この数字はどんな意味を持つものなのか。実績で年約2%増の東京大学を例に検証する。(編集委員・山本佳世子)

「年3%増は結構な規模感だ。自由裁量の経費を獲得し、大学の価値を高め、学外の支持を上げていく必要がある。(それらを後押しする)制度が整えば年3%増は可能かと考えている」。東大の藤井輝夫総長は中長期計画発表会見でこう述べた。計画では運用利益獲得のための基金1000億円を打ち出したが、新制度の申請は「まだ白紙」(藤井総長)の状態だ。実績が年約2%増の東大でも高い条件だけに、他大学が年3%増を達成するのは容易ではない。

「そもそも大学は教育・研究・社会連携を目的とする活動に支出(費用)が生じ、その手段として収入(財源)という立て付けだ」と、東大財務部の関係者は説明する。企業の目的が利益最大化に向けた収入で、利益獲得の手段である支出(原価)を減らそうという“原価回収思考”とは異なる考え方だ。

国立大の損益計算書も企業と異なる。計画通り活動したかを見る評価資料の位置づけだ。年度会計で国立大学法人化後も運営費交付金や補助金の収入と支出が一致する形式をとっており「0%成長が当たり前」(ある研究大学の理事)だった。経営努力の「成長」が言われるようになったのは近年のことだ。

これらを前提に東大の財務情報をみると、企業の売上高に相当する「経常収益」は2020年度末に2412億円。国立大が法人化した04年度末の1771億円と比べ、641億円増(36%増)となった。年平均成長率は1・95%になる。

経常収益の内訳では「運営交付金」が20年度末に32・0%。04年度比では16・8ポイント減と依存度が大きく下がっている。注目すべきは産学連携の「受託研究費など」が20年度末に21・7%で04年度比9・8ポイント増、特許や大学発ベンチャーからの還元といった「雑益・財務収益」が同3・1%で同2・1ポイント増と、それぞれの「収入」が増えている点だ。

相原博昭理事(財務担当)は「重視するのは一番の稼ぎ頭である受託研究費だ。伸びを期待するのは(将来の基金運用益も入る)雑益・財務収益。ポイントはグローバル化の推進だ」と強調する。これらの収入源の対象が国内では“東大独り勝ち”と他大学に言われそうだが、東大では外国の企業や財団、ベンチャーキャピタルとの連携といった強みもあり成長の余地はある。

「10年前は寄付金しかなかったが様変わりした。規制緩和で多様な財源が確保できるようになり、先行投資の発想も生まれた」(相原理事)。東大は先行投資の象徴となる大学債を12月に100億円発行する予定。大学債の発行で2番手を狙っていた他大学を引き離す展開となりそうだ。

関連記事:東大が1000億円の独自基金、大学債“2本目”が示すモノ

日刊工業新聞2021年10月28日

COMMENT

山本佳世子
編集局科学技術部
論説委員兼編集委員

国立大学法人化の直後は、今ほど学外資金獲得をいわれていなかったことを考えると、その時を含めてこの数字を出せているというのは、なかなかではないか。補助金や受託研究などの増減はありつつも、産学連携による共同研究は順調に増加し、とくに近年は産学協創の受入が伸びており、他大学がうらやむ収入を確保している。近く別の大学での財務記事も予定しており、ぜひそちらとも比較してみたい。

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研究費 研究大学

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