成長続く「水ビジネス」海外展開成功のカギは?神鋼環境ソリュ・JFEエンジの戦略
日本が優位性を有する水ビジネスの技術を海外に展開するためには、相手国目線で事業に関与し、最適な提案をすることが重要だ。東南アジアの潜在的市場で水ビジネスを展開する、神鋼環境ソリューションとJFEエンジニアリングのグッドプラクティスを通じて、日本企業が水ビジネスの海外展開を成功させるためのヒントを探る。
カンボジアで水道事業に参入
神鋼環境ソリューションは、カンボジアのSOMA社と共同出資して現地の企業共同体(JV)を設立し、首都プノンペン都コーダック地区及びカンダール州のコーオクニャテイ地区で、20年間の独占水道事業権を取得した。2019年12月より、住民約20,000人と商業施設を対象に水道水を供給している。日本企業がカンボジアで水道事業に出資する初の事例で、水道設備の設計・建設および試運転業務に加え、メコン川を水源とした浄水、各地区への配水、メーター検針、料金徴収までを包括的に行う。営業本部 海外営業部 担当部長の大野進氏に話を聞いた。
イニシャルコストを低く抑え、安定した処理プロセスの浄水を実現
—カンボジアで水事業を始めた経緯を教えてください。
「パートナーのSOMA社は当社の浄水システムを使ってタケオ州で水道事業を実施し、現地のネットワークに強みがあります。彼らはさらに国際規格を取り入れた水道事業で他の事業者と差別化を図りたいという企業戦略がありました。当社は浄水処理など技術面に強みがあり、両社の狙いが一致して、50%ずつ出資しJVを設立しました。また、カンボジア水道分野に対するODAや国際協力機構(JICA)、北九州市による技術協力の実績から、日本製品への信頼度が厚いことも独占水道事業権を取得する後押しになりました」
—両地区は水道自体がなかったそうですが、水道の供給開始から2年で、契約率が0から50%となり好調ですね。稼働率も目標以上です。
「コーダック地区とコーオクニャテイ地区は、どちらも我々が常駐する地域から近く、小規模ながら採算性が見込める場所です。浄水設備を簡素化して初期費用を抑制したほか、浄水処理には当社独自の技術である自動サイフォン・フィルターを採用しました。ろ過逆洗時の運転要員、洗浄ポンプ、電力が不要となり、他形式のろ過装置と比べ、維持管理費の低減が可能に。初期・維持管理コストを抑えて水道水を安定供給しています」
—事業運営で苦労されることはありますか。
「豪雨で土盛り前の浄水場建設予定地が水没したことや、現地加工品の精度が低く手直しのために、試運転が数日遅延したことがありました。また、住民が勝手にショベルや耕運機で道路を掘削するため、毎月水道管の破損事故が起きてしまいます。住民に注意喚起していますが、損失になり配水も滞るので、現状では一番大きな問題です」
—現地化を進めていった理由は。
「カンボジアの民間水道事業は、住民からの水道料金だけで賄うフルコストリカバリー(総費用の回収)方式で運営しています。そのため、どこにお金をかけ、どこを削るかという予算の濃淡を考えなければなりません。例えば、ポンプ、撹拌機、水道メーター等は保守の効率化の観点から、極力日系企業の製品を採用。その代わりにタンクやコンクリートは現地調達でコストを抑えるといったように、現地化を推進せざるを得ない状況でした。幸い、SOMA社の現地ネットワークを活用して、ベンダーや代理店など長く付き合える現地企業を探すことができました」
—今後、水事業を展開したい国や地域はありますか。
「アンコールワットで有名なシェムリアップにおいて、円借款案件「シェムリアップ上水道拡張事業」のパッケージ3(浄水場+取水設備の機械・電気工事)で、日系企業の施工としては最大規模(処理能力6万㎥/日)の浄水場建設工事が進行中です。シェムリアップなどの地方都市でも、今回のような包括的水道事業も行い、施設整備と維持管理の両輪でカンボジアの水道事業に貢献したいと思います。また、現地法人のあるベトナムでも事業展開予定。さらに、タイやラオスには水道が敷設されてない地域があるので、現地のパートナー企業とともに新たな投資先を見つけていきたいです」
フィリピンの大規模水インフラ整備を獲得
JFEエンジニアリングはフィリピンのサンタクララ社との企業共同体(JV)で、2017年に同国最大級(処理能力150万 ㎥/日、約600万人分)のラ・メサ第一浄水場(以下、ラ・メサ)の更新工事を、現地水道サービス会社のマニラッド社から受注した。環境本部海外事業部長の長屋敬一氏に事業の展望や課題を聞いた。
-フィリピンでは32件の受注実績があるそうですね。
「当社は日本鋼管と川崎製鉄が統合して生まれた会社ですが、もともと川崎製鉄が20年以上前からフィリピンのメトロマニラ(マニラ首都圏)で土建工事を受注していました。これが水ビジネスの出発点で、海外事業の中でも同国が群を抜いて案件が多いです。フィリピンのほかにも、ベトナムでは現地企業BIWASEとの業務提携を進めているほか、マレーシア、スリランカなどにも展開しています」
-フィリピンの事業が成功している理由は。
「我々EPCコントラクターの受注形態は、発注者が仕様書を策定しその通りに建設するエンプロイヤーデザイン方式か、設計から提案するデザインビルド方式のどちらかなのですが、フィリピンではデザインビルド方式が多く採用されます。前者は、仕様書が決まっているので、コスト面が重要視され、競合と差がつきにくい。後者は自由度があり、当社の創意工夫が発揮できます。決められた敷地などの制約の中で『原水の量と質はこれ。最終的にはこんな水質にしてほしい』などの発注者の希望を踏まえ、設計の段階から、当社の得意とする施工技術を盛り込んで提案ができます」
-相手国が求める水準の実現と、日本の技術の優位性を盛り込んだ質の高い提案の両立が可能になるのですね。どのような点を工夫したのでしょうか。
「省スペース設計によるコスト削減と、国内での施工経験の活用です。例えば、同じ能力を持つ浄水場でも、設備がコンパクトになるほど土木工事量は少なくて済み、コストダウンにつながります。また、ラ・メサの場合は、既設浄水場の運転を継続しながら設備更新を行います。そのためには、現状の浄水処理プロセスを理解したうえで、綿密な工事計画が不可欠です」
水インフラビジネスの“面白み”は、運営まで携わること
—長期化するコロナ禍の影響はありましたか。
「物資の輸送遅延や現地のロックダウンによる労働者の行動制限などにより、ラ・メサも工期が延びました。もっと困るのは経済的に困窮した家庭が水道料金を支払えなくなることです。そうなると事業者の設備投資が鈍るのではないかという心配が出てきます。引き続き影響は注視していますが、中長期的にはコロナ禍が収まれば元に戻るとみています」
「コロナ禍のような想定外のリスクを考えると、現地で末永く付き合いができるビジネスを育てるべきでしょう。最終的に浄水や下水処理の事業運営まで携わり、民間企業の創意工夫で持続可能な経営を実現することが、水インフラビジネスの“果実”といえますし、面白みだと感じています。当社は、デザインビルドでの設備供給にとどまらず、そのさらに「上流」に携わっていきたいと思っています。そして現地企業が自立した際には、日本の企業としてどうやってグループ・ガバナンスを行うのか考える必要があります。そこに至るまで10年はかかるでしょうけれど」
—それが将来的な展望ですね。
「はい。水供給・水処理・排水処理と、現地の水インフラを担う現地法人を一つでも多くつくり、地域振興に貢献したい。『このエリアはJFEエンジニアリングが頑張っているよね』と言われるようになりたいですね」