日本製鉄もJFEスチールも。鉄鋼大手が「電磁鋼板」の生産能力を拡充する狙い
鉄鋼大手は自動車の電動化などに対応し、電磁鋼板の生産能力を高める。日本製鉄は広畑地区(兵庫県姫路市)に約190億円の追加投資を決め、八幡地区(北九州市戸畑区)分を含め累計投資額は約1230億円となる。JFEスチールは倉敷地区(岡山県倉敷市)の設備を約490億円投じ増強中。ともに2024年度上期までに高級品の生産能力を現状比2―3・5倍とする。収益力向上の切り札として育てて、追い上げる海外勢を引き離す考えだ。(編集委員・山中久仁昭)
電磁鋼板は電気自動車(EV)やハイブリッド車(HV)向けモーター、発電所の変圧器などに使われ、脱炭素の機運が高まりで省エネ素材として注目されている。エネルギーロスを少なくし、モーターの小型化・高出力化などに寄与する。
日鉄は19年夏に公表した八幡地区への約460億円を手始めに5回にわたって設備投資を打ち出してきた。累計約1230億円のうち八幡に約46%、広畑に約54%を充てる。 追加投資に先立つ10月、日鉄の橋本英二社長は「広くニーズがあり(約1040億円の従来投資では)足りない。さらに増やす」と明言。「ハイエンドの電磁鋼板は当社の技術・製品がデファクトスタンダード(事実上の標準)」としていた。
一方、JFEスチールは倉敷地区のラインを増強し、EVモーター用の高級電磁鋼板の製造能力を倍増させる。高効率モーターなどの需要は世界的に拡大するのは必至で、同社は先々の追加投資を検討している。
電磁鋼板は鉄に少量のケイ素を添加しており、モーターの鉄心部分で生じる損失(鉄損)を最小化するのに有効だ。磁性方向に応じて変圧器向けの方向性電磁鋼板、電動車用の無方向性電磁鋼板に分けられる。ただ高効率化と高トルク、高回転は背反関係にあり、適切な調整には“匠の技”が不可欠だという。
無方向性電磁鋼板を巡っては日鉄が10月、特許を侵害したとして中国・宝山鋼鉄とトヨタ自動車を提訴した。宝鋼がトヨタに電磁鋼板を供給したことが明らかになった20年当時には、日鉄幹部は感想を問われ「設備投資で(より多く、安定した供給)態勢が整うまで“渡り”の時期だった」との認識を示した。
JFEホールディングスの柿木厚司社長も「自動車メーカーの調達多様化の動き。最先端技術が(中国に)追い付かれているとは思っていない」と述べた。日本のお家芸に追い付こうとする動きは活発化しており、大手各社は設備増強と品質向上で多様なニーズを確実に取り込む考えだ。