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鉄鋼各社、値上げ圧力強まる。新日鉄住金「一定の理解を得た」

原料炭の急騰受け。市中価格の浸透には一定の時間
鉄鋼各社、値上げ圧力強まる。新日鉄住金「一定の理解を得た」

各社とも利ざやが縮小している(写真はイメージ)

 鉄鋼各社の値上げ圧力が強まりそうだ。各社は2016年秋以降の原料炭価格急騰などを受け、鋼材販売価格の引き上げを急いだものの、原料炭の値上がりにはまだ追い付いていない。今後、値上げがどこまで浸透するかが不透明なことなどから、18年3月期連結決算の業績について、期初予想の公表を見送る企業が相次いだ。原料炭市況が当面、高止まりするとの見方が強まる中で、販売価格への転嫁に向けた各社の動きが強まるのは必至だ。

 「鋼材の値上げについて、顧客から一定の理解を得た。今期(18年3月期)に確実に浸透させていく」。新日鉄住金の栄敏治副社長は、4月28日に行った17年3月期連結決算に関する会見で、値上げに強い意欲を示した。

 当面の取り組みとして同社は大型プロジェクト向けなどのH形鋼販売で「先納期物件の受注を手控え、足元の物件で価格是正(値上げ)に専念する」(営業担当者)方針だ。店売り(一般流通)向けのH形鋼は4月契約分の価格を据え置くものの、この間の値上げが浸透するのを見極めた上で、早期に値上げを再開するとみられる。

 同社は16年10月からこの間に、店売り向けでトン当たり累計2万1000円の値上げを打ち出したが、市中への浸透は「1万円に届かない」(営業担当者)のが実態。「安定供給を果たすには、マージンの確保が急務だ」(同)として対応を急ぐ。

 原料炭の調達価格が16年7―9月期から17年1―3月期にかけて3倍の水準に高騰したのを受け、鉄鋼大手各社は総じてトン当たり2万円の値上げを打ち出した。だが、値上げが市中の価格に浸透するまでには、一定の時間がかかる。

 一方で中国製などの低価格な輸入材との競争や、原油安に伴って油田やガス田に使う高付加価値品の需要減退が響き、販売価格が軒並み下落したため、各社とも利ざやが縮小している。

 ただ、鉄鋼需要は自動車向けや建設向けを中心に堅調に推移しており、各社は輸出を抑えて国内供給を優先している。このような状況を追い風に、各社とも早期の値上げ浸透を図りたい意向だ。
               

(文=宇田川智大)

 
日刊工業新聞2017年5月10日
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
一方にはリスク要因もある。中国政府の景気対策が息切れし、政策効果で支えられていた同国の鉄鋼需要が減退すれば、余った製品が輸出に回されて、世界の需給バランスが大きく崩れ、国内各社の値上げを阻む障害になりかねない。一方で原料炭の値上がりは、7―9月には一服するものの「その後も高止まりする」(神戸製鋼所の梅原尚人副社長)公算が大きく、各社の収益改善がどこまで進むかは不透明だ。 (日刊工業新聞・宇田川智大)

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