100年以上の歴史に幕…JFE「京浜高炉」の火が消える

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JFEスチールの東日本製鉄所京浜地区の高炉

京浜工業地帯のシンボル、高炉の火が消える―。JFEスチールは2023年度にも、東日本製鉄所京浜地区(川崎市川崎区)の製銑・製鋼、熱延工程を閉じる。100年を超す歴史を持つ同社発祥の地の一つにもかかわらず、米中貿易摩擦や中国勢の台頭などによる鋼材需要減を受けて苦渋の構造改革に踏み切る。雇用の確保や約250万平方メートルに及ぶ跡地の有効利用を含め、競争力の強化にどうつなげるか。(編集委員・山中久仁昭)

経営資源、選択と集中

「脈々と受け継がれてきた歴史ある設備。皆さんの悔しさ、悲しさは言い表せないものだ」。JFEスチールの北野嘉久社長は社内報で高炉休止に理解を求め、「難局を乗り越えるには選択と集中が不可欠」と強調した。

休止するのは高炉、シャフト炉、焼結設備、コークス炉、転炉、電気炉、連続鋳造機などで全敷地の半分(約250万平方メートル)にあたる。同じ東日本製鉄所の千葉地区(千葉市中央区)とは異なり、同社が力を入れる自動車用鋼板向けの割合が「約1割にすぎないのが休止の決め手となった」と関係者はみる。

鉄鋼業界では人口減少などによる需要減でかねて生産能力が過剰との指摘があった。

日本製鉄は北海道室蘭市、茨城県鹿嶋市、千葉県君津市、和歌山市にある高炉1基ずつを一時休止中。また、北九州市小倉北区の高炉を7月に休止したほか、広島県呉市の拠点を23年9月末にも閉鎖するなどの生産構造対策を打ち出した。足元の需要減が続けば、追加や前倒しをする予定だ。

23年度休止―収益改善600億円

京浜の高炉休止で、JFEスチールの粗鋼生産能力は約3000万トンから2600万トン程度に下がる。北野社長は「昨今の内需や輸出の状況、高炉の機能維持・劣化更新投資を考えると、約400万トンの能力は過剰と判断した」と語る。構造改革で年600億円の収益改善を見込む。

京浜地区は、JFEに統合前の旧NKK(日本鋼管)発祥の地。創業者の悲願に国の銑鉄自給要請もあり1936年、最初の高炉が完成し、首都圏初の銑鋼一貫製鉄所として誕生した。日本の高度経済成長の一翼を担い、最大級の広幅ステンレス・クラッド鋼板製造に成功したり製銑工程を省エネルギー化できる原料の実験プラントを立ち上げたりした。「環境調和型製鉄所」として96年、使用済みプラスチックの高炉原料化などの環境リサイクル事業も始めた。

「休止は時代の流れであり宿命。残念だが鉄づくりのDNAや培われた技術は他で生きるだろう」。京浜の製銑・製鋼部門を経験したグループ企業の役員はこう受け止める。

跡地利用検討で専門組織設置

高炉などの跡地利用策で、持ち株会社のJFEホールディングス(HD)は、2020年度中に専門組織を設ける方針。柿木厚司社長は7月の会見で「行政の要望を聞き、事業性の問題や雇用吸収など、あらゆることを考えたい」と述べた。 京浜地区に残るのは下流工程で、首都圏向けの建材や建設機械用厚板、溶接管などを手がける。製品の素材のスラブ(半製品)は、西日本製鉄所倉敷地区(岡山県倉敷市)などが供給する。

鉄道で高炉から溶銑(鉄鉱石を溶かしてできる鉄)を製鋼工場に運ぶ

中国勢の追い上げに対抗 聖域なき見直し―競争力強化

今回の決断には、競争力ある重点分野に経営資源を投入する「選択と集中」を挙げる。海外勢とのコスト競争にさらされる汎用品の比率を減らし、電磁鋼板や超高張力鋼板(超ハイテン)といった高級鋼などに注力する。

新型コロナウイルスの感染拡大で鋼材需要は落ち込むが、コロナ禍以前に、米中摩擦や中国勢の追い上げから日本の鋼材需要は低迷し、原料高・製品安に見舞われていた。

JFEHDは20年3月期に、製鉄所の資産価値を引き下げる約2300億円の減損損失を計上、最終的な当期損益は1977億円の赤字(前期は1635億円の黒字)だった。

鉄鋼大手の20年4―6月期の当期損益は、日本製鉄が420億円の赤字(前年同期は333億円の黒字)、神戸製鋼所が131億円の赤字(同11億円の赤字)。JFEHDは12日に同期決算を発表予定だが、厳しい結果となりそうだ。

世界の鉄鋼業界で力を増す中国勢にどう対抗するかは大きなテーマ。柿木社長は「中国粗鋼の伸びは、鉄鉱石など原料価格の高止まり、安価な鋼材による主戦場の東南アジアの市況悪化などのリスクがある。構造改革の引き金になった」との認識を示す。

折しもコロナ影響で西日本製鉄所倉敷地区、福山地区(広島県福山市)で、それぞれ高炉3基中1基を一時休止。足元で減産が続くが、今後の収束状況次第では、追加措置を講じる必要もでてくる。

高炉の休止は時代の流れで宿命…

「短期的な生産が、京浜(高炉)を止めた後に想定する(粗鋼生産能力の)2500万―2600万トンに戻るのに時間がかかるなら、さらなる上工程の一時休止も視野に入れていく」(柿木社長)。

JFEHDは目下、21年度の鉄鋼事業黒字化に向けて「聖域なき見直し」を進める。固定費の削減やコスト構造の変革、鋼材価格の適正化など、あらゆる手を使って成し遂げたいとする。

柿木社長は日本全体の粗鋼生産が8000万トンを切る見方もあるのを踏まえ、「当社がスラブを売って、他社が高炉を止めるなど、経済合理性があって世界的にも通用する前提ならば、他社との連携もない話ではない」とも語る。旧川崎製鉄と旧NKKの統合企業だけに、再編への抵抗感は薄いようだ。

国内競合メーカーとの工程の相互活用、高炉と電炉の複合経営など、多様な選択肢があろう。コロナ後の新常態を見据え、日本鉄鋼業の競争力維持・強化には従来の概念にない、柔軟な発想が必要なのかもしれない。

私はこう見る

供給上の問題生じない SMBC日興証券シニアアナリスト・山口敦氏

京浜の休止で残る高炉は千葉の1基、西日本が福山、倉敷の各3基。東西の役割分担はJFE発足時から想定内のことで、京浜の高炉を閉じても供給上の問題は生じない。地元の協力会社は他地区に移転とはいかないだろう。高炉は人工島・扇島にあり、住宅や商業施設が建つ環境ではない。跡地は自治体と連携し、環境リサイクル拠点や倉庫に有効活用されるのが良い。(談)

◆地域経済への影響、最低限に 元旋盤工・作家・小関智弘氏

旋盤工だった現役の頃、旧NKKの工場設備向けの一品モノを加工した。手こずった仕事もあったが、これが製鉄所の機械部品かと実感した。東京・大田区という、京浜工業地帯の一角にいたからこそ回ってきた仕事だ。『精密加工なら京浜間に』との評判は、大企業と町工場が向き合う関係から生まれたのだろう。夕日に映える高炉の煙が消えるのは寂しい。地域経済への影響は最低限にとどまってほしい。(談)

日刊工業新聞2020年8月12日

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