続く中国の「一強」状態、日本の鉄鋼業界は質で勝負できる?
鉄鋼業界の脅威は中国勢―。コロナ禍で各国が経済低迷にあえぐ中、いち早く経済活動を再開し、大型の公共・インフラ工事で鋼材需要が活発だ。国内粗鋼生産でも足りず、日本や韓国などから輸入する。一方、アジアや中東で製鉄所建設を加速する。各国の原料調達や市況価格に大きな影響を及ぼしている。
中国の粗鋼生産は世界全体の約6割を占め、「一強」状態が続く。8月は前年同月比8・4%増の9485万トンで、月次の過去最高を更新。10月まで6カ月続けて9000万トンを超した。20年累計は10億トンを突破するとの見方が少なくない。
世界で覇権を握りたい中国政府は、基幹産業である鉄鋼の再編で旗を振る。最大手の宝武鋼鉄集団は、ステンレス大手の太原鋼鉄集団を統合した。両社の粗鋼生産量を合算すると、欧アルセロール・ミタルを抜き世界首位に躍り出る。他の製鉄グループでも再編の検討が進められている。
対する日本の鉄鋼大手は、石炭や鉄鉱石などの原料調達やグローバルな事業展開などあらゆる面で「中国を意識しない戦略は今やあり得ない」(日本製鉄の橋本英二社長)との認識で一致。製品では、特殊鋼棒線や電磁鋼板など高級鋼の取扱比率を高めて、質で勝負したいとしている。
中国の旺盛な需要に対応し、電炉鋼を扱う東京製鉄は7月、10年ぶりにホットコイル(熱延広幅帯鋼)の対中輸出を再開した。価格面で折り合いが付いたことは大きい。各社にとってコロナ禍の下、中国需要が収益を下支えしたのも事実だ。
高水準の生産が続く中国では21年、鉄スクラップの輸入制限を解くとみられる。H形鋼の日本での値上げの背景には「スクラップ価格が大きく上がり、従来とステージが変わってしまっている」(日鉄)ことなどがある。
中国の需要はいつまで底堅いのか。阪和興業の古川弘成社長は、約90兆円もの内需刺激策について「インフラ整備は一度決まれば3―5年は続くだろう」とみる。
一方で警戒する声も少なくない。