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新潟県燕市で「共用クラウド」稼働へ、市役所を動かした地元企業社長の危機感

受発注・納期を見える化
新潟県燕市で「共用クラウド」稼働へ、市役所を動かした地元企業社長の危機感

新越ワークス公式サイトより

燕市IoT推進ラボ(新潟県燕市、横山淳会長)の目玉である「燕版共用クラウドSFTC」が完成した。2022年度から運用を本格開始する。システムの実証に参加した企業での業務削減効果は高く、設定・運用を説明する動画も用意。世界のどこの会社でも使える燕市発のシステムとして近隣市などに参加を呼び掛ける予定という。(新潟支局長・丸山美由紀)

「社長!その手書き伝票やめませんか?」「いつまでアナログですか?」。SFTCの利用を呼び掛ける案内状には刺激的な言葉が並ぶ。その効果か、10月の説明会には会社経営者や担当者ら150人が参加。参加者へのアンケートでは5割が導入を検討すると回答した。

SFTCはスマートファクトリーツバメクラウドの略称。クラウドサービスで企業間の受発注や工程・在庫状況、納期を“見える化”する。燕市産業振興部商工振興課の山崎聡子課長補佐は「燕市全体を一つの工場と考え、次の工程に移る際の受発注を口頭や紙からデータに変えて共用する」と話す。

SFTCの取り組みは、地元企業である新越ワークスの山後春信社長の危機感から始まった。山後社長は地域で受け入れたカンボジア人留学生がファクスの機器を見て「これは何ですか?そのパソコンはインターネットに接続されていないのですか?」と言ったことにショックを受けたという。そこで「燕の強みは連携。だが会社の中は昭和のままだ。人手不足の令和の時代には生き残れない」(山後社長)と燕市役所に相談した。

燕市は洋食器やキッチン用品を手がける企業の集積地で技術力は国内でも指折りの地域。新越ワークスには2000種類の商品があり、ザルを一つ作るために金網や線材・板材の発注、部品加工、洗浄、包装の6工程に25枚の紙を作成していた。同じ物をつくるのに製品名などが各社で異っていたり、納品書や請求書、納期連絡などの書類作成といった膨大な作業を当たり前のようにこなしていた。

山後社長の訴えを聞いた燕市は、国のIoT(モノのインターネット)推進ラボに応募し認定を取得。国の地方創生推進交付金を得てクラウド型受発注システム制作に取り掛かった。地元出身の樋山泰三社長が経営するウイング(東京都千代田区)が制作を担当。賛同する新越ワークス、本間産業(新潟県燕市)、明道メタル(同)などが業務の流れの棚卸などを行い、一部費用を負担してシステム構築にフィードバックした。実証実験の評価は高く、確認の電話が不要になるなど業務量が半減したという。

SFTCの利用料は各会社が負担する。受発注の機能で月額3万円、発注だけでは同2万円、受注は同1万円。「商社機能を持つ会社が先行してくれれば導入しやすい」として商社を勧誘中だ。また「外注先は年配の“父ちゃん母ちゃん会社”。導入は難しいだろう」という声もあったが「そうした会社ほど、業務が減らせて生産に集中できるようになる」と商工中金新潟支店の黒田直洋支店長も取り組みを評価する。燕市の山崎課長補佐は「SFTCは目的ではなくツールに過ぎない。一度に全てを変える必要はなく、各社が身の丈に合った使いやすいツールを採用してもらい、燕地域全体の生産性を上げる」と期待をかけている。

SFTCの説明会には2日間で150人が参加。熱い関心を集めている
日刊工業新聞2021年10月29日

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