復権!ステンレス、コロナ禍で約20年ぶりに再注目のワケ
清潔志向の高まりで約20年ぶりに脚光―。新型コロナウイルス感染が長期化する中、抗菌性を持つステンレス鋼商材が注目されている。引き合いが増えて特設サイトを開設した企業、販売の復活を検討する企業など、動きはさまざまだ。鋼材全般が需要減に見舞われる中、コロナ収束の先行きを見ながら苦境を打開する、新たなチャンスになるかもしれない。(取材=山中久仁昭)
1990年代後半はステンレス鋼業界にとって、抗菌性をうたう商材の“開発ラッシュ”だった。当時、腸管出血性大腸菌「O157」による食中毒事件が各地で発生。厚生労働省によれば「病原大腸菌」起因の食中毒は、98―2001年に毎年200―300件弱と数多く発生した。
各メーカーがうたう「抗菌性」は、細菌の増殖を抑えるとの意味で、「滅菌性」「殺菌性」と違う。細菌は、体内の細胞で増えるウイルスと異なる。現在も「抗菌性は、個別の使用条件や環境では発現しない場合がある」とうたう製品がある。
だが、消費者の間では「多少高くても、買うなら抗菌性商品の方が安心」との声もある。
国内ステンレス鋼最大手、日鉄ステンレス(東京都千代田区、伊藤仁社長、03・6841・4800)には、90年代に開発した商品への引き合いが半年間で数十件に及んだ。
7月末に抗菌性ステンレス鋼商品の紹介サイトを立ち上げた。素材自体が抗菌性を持つ「NSSC AMシリーズ」、防汚機能もある「NS―COAT―DB」の2商材である。
旧日新製鋼時代に生み出したNSSC AM(旧NSS AM)は、黄色ブドウ球菌、大腸菌、サルモネラ菌に対応する。抗菌作用を持つ銅を微量添加したのが特徴でフェライト系とオーステナイト系がある。特殊な熱処理で銅の上に、一般のステンレス鋼では当たり前の不動態皮膜を形成せず、外面に銅が溶出できるようにした。
NSSC AMを採用して、家庭用金属製品のタケコシ(新潟県燕市、竹越孝行社長、0256・63・2727)は抗菌性のある三角コーナーを販売する。汚れにくく、清潔で丈夫なのが売りだ。
旧新日本製鉄の時代に投入された「NS―COAT―DB」は、任意の母材に抗菌性クリヤー塗装を施したステンレス鋼板。これら2商材は現在、第三者機関が抗菌・抗ウイルスを評価しており、年内にも結果が出る。開発から時間がたち、技術進化や時代環境の変化もあり、日本産業規格(JIS)や国際標準規格(ISO)の規定や試験方法が変わり、評価し直している。
一方、旧川崎製鉄(現JFEスチール)、日本冶金工業なども96年から数年間、開発成果を競った。システムキッチンのシンクや洗濯機などに採用されて話題になり、医療器具や食品機械、一般建材にも広がった。
だが、O157が収束すると、売り上げは落ち、次第に供給を休止することに。抗菌性の安定性などにも課題があり、当時を知る業界関係者は「試験を複数行っても、結果がまちまち。機能の保証は難しい」「抗菌作用を持つ銀を塗布したが、コスト増が懸念された」と振り返る。
とはいえ、ある鋼材メーカーは、かつて開発した抗菌性商材の販売再開を検討中だ。コロナ禍で数件の引き合いがあり、今後本格的に需要が出てくるとの想定のもと、機能などを再評価するなど準備を進めているという。
抗菌性商材ブームは再燃するだろうか。「健康・安全・清潔指向の高まりなどが追い風。中長期的には、ステンレスの出番が再び来るはずだ」(NSステンレスの沢田充社長)との期待の声が聞かれる。
好機だが…改良・検証に時間も
くしくも、国内ステンレス鋼業界はこの約20年間、再編を続けてきた。昭和時代の終盤に年率約15%伸びた内需は人口減少などから頭打ちに近い。ステンレス鋼熱延鋼材の19年の国内生産は前年比9・7%減の266万7128トンだった。
「抗菌性を持つプラスチック製品などに比べ、鉄鋼の世界は改良、検証などに時間がかかる」(関係者)現実をどう乗り越え、チャンスをものにするか。コロナ禍はステンレスへの期待と同時に課題も突き付けているようだ。