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火力発電設備子会社を統合した三菱重工。脱炭素化の逆風下で描く成長戦略は?

火力発電設備子会社を統合した三菱重工。脱炭素化の逆風下で描く成長戦略は?

三菱パワーが製造してきたガスタービン

三菱重工業は、火力発電設備を手がける主力子会社、三菱パワーを本体に統合した。2014年の日立製作所との事業統合など紆余(うよ)曲折を経て、再びグループの中核事業として成長を目指す。世界は脱炭素の潮流で火力発電に対する逆風が強まるが、三菱重工が推進する水素、二酸化炭素(CO2)回収技術などと一体化することで活躍の場が増える見通しだ。(孝志勇輔)

【新エネに応用】世界最大の貯蔵施設に参画

米西部ユタ州。ここで三菱重工は岩塩空洞の開発・運営会社、マグナム・デベロップメントと共同で再生可能エネルギー由来では世界最大級となる100万キロワット級のエネルギー貯蔵施設の開発を目指している。

岩塩坑に太陽光発電や風力発電などの再生エネを利用した水の電気分解で取り出した水素などを貯蔵。三菱パワーが進めてきた水素焚きガスタービン・コンバインドサイクル(GTCC)発電に利用し、地域の電力をまかなう。

この壮大な計画に石油メジャーの米シェブロンが目を付けた。三菱重工とマグナムの合弁による事業運営会社に参画する方向だ。シェブロンはエネルギーのサプライチェーンに豊富な実績、知見を持つ。「理想的なパートナー」と三菱パワーの米国法人幹部は語る。

「エナジートランジション(エネルギー転換)」を掲げ、三菱重工は50年のカーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)に向けて脱炭素化技術と水素バリューチェーンの構築に活路を見いだす。グローバルで再生エネ拡大の動きは加速するが、発電コストの地域格差、バックアップ電源の必要性、熱を大量消費する産業分野の競争力維持など課題は少なくない。

燃焼器、高砂の蓄積生きる

従来型火力発電の新設は投資が抑制されるが、低炭素化への改造投資の増大に加え、水素発電やCO2回収などの新事業が生まれる見通しだ。とりわけ水素ガスタービンのキーコンポーネントである燃焼器については、発電設備を併設した三菱パワーの高砂地区(兵庫県高砂市)の製造・開発・実証拠点が生きる。

一方、発電設備のサービス事業拡大も期待できる。競合の米ゼネラル・エレクトリック(GE)、独シーメンスがポートフォリオ入れ替えでエネルギー分野を縮小する一方で、粘り強く技術開発を進め、大型ガスタービン世界一の座を射止めた三菱パワーはアジアを中心とした顧客基盤が財産になる。

また、当面は石炭から液化天然ガス(LNG)への燃料シフトがトレンドになる公算は大きく「GTCCの需要は横ばいないしは微増」と三菱重工の泉沢清次社長は予測する。

火力への逆風、変革は素早く

とはいえ、既存の火力発電への逆風はやまない。14年に旧三菱日立パワーシステムズ(MHPS)が発足し、同じ年に三菱重工はシーメンスと共同戦線を張り、GEに対して仏アルストムへの提携を提案するなど、エネルギー機器業界に大型M&A(合併・買収)旋風が吹き荒れてからわずな時間で、大変革が訪れた。MHPS発足時には稼ぎ頭のガスタービン事業を日立との共同運営に切り替えることに異論もあった。変化の速度は想像を超えていた。

三菱重工は今後、三菱パワーを本体に取り込む一方、さまざまな技術に対応できるよう、幅広な協業戦略で「上流から下流までのバリューチェーンをつくる」(泉沢社長)。ユタ州の水素貯蔵プロジェクトのような実証参画などを通じて、脱炭素時代のキープレーヤーとして台頭したい考えだ。 

【戦略転換急ぐ】風力進出・防衛装備品を強化

脱炭素など事業環境の急激な変化を受けて、三菱重工は事業ポートフォリオの組み換えを急ぐ。既存事業の伸長とともに、課題事業の構造転換を急ぎ、自社の稼ぐ力を底上げする構えだ。20年度は4件の組み換えに踏み込んだ。需要拡大が見込める風力発電事業では、デンマークの風力発電機世界大手、ヴェスタスに2・5%を出資。これまでの業務提携から資本関係を結び、シナジーの最大化につなげる。

安定的な収益基盤に位置づける防衛装備品事業では、艦艇・官公庁船事業の強化に乗り出した。3月に三井E&Sホールディングス(HD)の艦艇事業を買収することで最終合意し、三井E&Sが得意とする補給艦などを取り込んで事業体制を強化する。泉沢社長は「防衛関連の受注には山谷があり、船種を増やして生産性も上げる」と強調する。

商船・歯車工作機械…聖域にもメス

商船事業では歴史ある長崎造船所香焼工場(長崎市香焼町)の新造船エリアを大島造船所(長崎県西海市)に譲渡する契約を締結。同工場は近年、液化天然ガス(LNG)運搬船にシフトして受注に力を入れてきた。ただ、大手同士が経営統合した韓国や中国企業の安値受注攻勢に押され、LNG船は15年を最後に受注できない状況が続いていた。先行きも事業環境は厳しいと見て、抜本的解決策に取り組む。

世界3強の一角だった歯車工作機械事業も例外ではない。2月に同事業を日本電産に売却することを発表。新型コロナウイルス感染拡大の影響で落ち込んでいた工作機械事業を、石炭火力発電設備や商船と同じく、テコ入れが必要な事業と判断した。

足元ではコロナ禍の影響もあり、成長エンジンとしていた航空機関連事業の落ち込みも大きく、収益環境の厳しさは増すが、造船など保守本流の事業にもメスを入れる聖域なき構造改革を実行。泉沢社長は「事業規模を追うのではなく、飛躍への足場を固める」と力を込める。

本年度スタートの中期経営計画では、成長領域に3年間で1800億円を投じる計画。燃料転換の推進で脱炭素需要を取り込むエナジー事業を軸に新たな成長軌道を描く。今後も時流に合わせた柔軟なポートフォリオ転換を継続的に実施する方針。これまで培ってきたモノづくり力と、人工知能(AI)やIoT(モノのインターネット)といったデジタル技術を組み合わせ、収益体質を抜本的に改革していく。

日刊工業新聞2021年10月1日

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