高まり続ける通信需要をどう支えるか、デジタルインフラの現状と今後

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IoT(モノのインターネット)の活用などで工場のスマート化が進む

ますます高まる通信需要

政府がデータセンター(DC)や通信網などデジタルインフラ強化に向けた議論に乗り出した。エネルギーや食糧と並び、経済と国民生活を動かす基盤として通信需要は拡大の一途をたどる。目に見えない「社会の血液」はどう張り巡らされていくのか。通信用途の広がりやレジリエンス(復元力)強化、新たな需要の創出など課題が山積する中、デジタルインフラの現状と今後の行方を探った。(高田圭介)

政府が乗り出す 10年で通信量30倍!

東京都心から直線距離で約40キロメートル離れた千葉県印西市。千葉ニュータウン中央駅から約15分歩いた場所に、巨大なDCが立ち並ぶ一角がある。足元では大和ハウス工業が約1000億円を投じて新たなDCの整備を計画するなど建設ラッシュが続く。

印西市をはじめ関東には全国の約6割のDCが集積し、大阪府茨木市や箕面市などの関西圏を含めると約8割に及ぶ。背景には需要地との距離が影響している。レイテンシー(通信遅延)の低さや交通アクセスの観点から、都市部に比較的近く広大な土地を確保できる場にDCの立地が集中した。巨大なDCが多い関東圏や関西圏に対し、バックアップや地場企業からの要請に応える形で整備が進んだ地方は小規模なDCが多いとされる。

コロナ禍に伴うテレワークの普及やスマートフォンの利用など通信需要の拡大は、一部で通信遅延をもたらした。今後も自動運転やスマート工場、遠隔医療などあらゆる場面で広がり、総務省は10年後に通信量が30倍になると試算している。

増え続ける需要に対し、政府は地方分散を念頭に国内でのDCの配置計画を打ち出した。6月に公表した成長戦略実行計画では、高性能・低消費電力のDCについて全国に5カ所程度の中核拠点と、10カ所程度の地方拠点の立地を掲げた。

情報通信分野を所管する経済産業省や総務省は19日の有識者会合で、レジリエンス強化を踏まえ、東京圏から約数百キロメートル程度離れていることや約10ヘクタール以上の敷地面積の確保などを要件案として示した。今後、事業者ヒアリングや立地に関心を寄せる自治体との個別のやりとりを通じて、年内にも取りまとめを公表する予定だ。

通信の性能や利便性向上に向けた動きも出ている。経産省はパワー半導体の損失低減や、サーバー配線を光配線化する光電融合技術などの研究開発を22年1月下旬をめどに始める。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)による2兆円のグリーンイノベーション基金のうち、最大1410億円を活用する。

地方のDC誘致 問われる地産地消構築

地方への拠点立地と研究開発を同時並行で進めようとする政府に対し、自治体の反応はどうか。地域特性を生かした誘致戦略が見え始めている。

北海道では山本強北海道大学特任教授が中心となり、「北海道ニュートピアデータセンター研究会」を設立した。日本と欧州を北極海経由で結ぶ海底ケーブルの敷設計画や自然エネルギーの活用、外気を取り込んでサーバールームを冷却できる寒冷地特有の気候などの利点を訴求し、東京や大阪からの分散の受け皿としての展開を狙う。

地元自治体や経済界も関心を示す。苫小牧商工会議所は5月、岩倉博文市長にDC誘致の要望書を提出したほか、札幌市・石狩市・苫小牧市の3自治体の連携で誘致する計画もある。

福岡市、北九州市と、二つの政令市を持つ福岡県も手を挙げている。服部誠太郎知事は7月の会見で電力コストや土地の安さ、BCP(事業継続計画)の観点から「立地場所として最適」と述べ、誘致の推進を発表。県はプロジェクトチームを立ち上げ、準備に乗り出した。

DCの地方分散には課題も多い。小林鷹之経済安全保障担当相は15日の会見で国内での半導体の製造基盤強化と合わせ、「全体で政策の整合性が取れるか(が重要だ)。バラバラにやっていても仕方ない」とし、各省庁にまたがる施策に横串を通すべきだとの認識を示した。

大量の電力を消費するDCには、特別高圧の電力ケーブル敷設や立地場所から需要地への通信網構築が必要になる。地下に設ける電力洞道などの整備には10年ほどかかるケースもあり、経産省と総務省の有識者会合でもボトルネックになる可能性が指摘された。

デジタルインフラの整備とともに、地方では新規需要の開拓が求められる。岸田文雄首相に近いある政府関係者は「『課題先進国』だからこそ、自動運転、スマート農業などの分野で地方にデジタルインフラが必要になる」と述べるが、苫小牧商工会議所の担当者が「需要創出はこれから」と語るように、地域特性と結び付けた通信の地産地消の答えを見つけ出すことは難しい。

脱炭素化もキーワードとなる。米グーグルや米アマゾン・ドット・コムなど、世界のDC事業者は消費電力が多いDCの運営でカーボンフリーエネルギーによる調達を目標に掲げた。日本国内でも再生可能エネルギーの出力制御を抑制する手段の一つとしてDCの立地を分散する案も出ているが、具体化には時間がかかる。

少子高齢化など課題が多い日本で、社会や経済を変革するデジタル技術への期待は大きい。インフラの整備や需要創出、脱炭素化の対応といったハードルを乗り越えるには、関係省庁、自治体、事業者による三位一体の取り組みが欠かせない。

日刊工業新聞2021年10月28日

COMMENT

高田圭介
編集局経済部
記者

「ニワトリが先かタマゴが先か」。これからのDCをはじめとするデジタルインフラの整備には、そんな命題がつきまといそうです。地方にせっかく立派なDCができても需要がなければ箱モノとしての有効活用は難しいですし、かといって需要だけを先に掘り起こしても地域経済やその土地に住む人々が追いつけない可能性もあります。 今回、実際に印西に足を運びましたが、製造拠点や物流拠点と比べると「音がない」=「静か」な印象も受けました。DCや通信網の設備が進むにつれて地域経済にどれだけメリットがあるのか。名乗りを上げる自治体側もただDCを誘致して建設するだけでなく、その先のどんな未来を描くかが問われそうです。

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