111兆円規模の来年度予算要求。ポイントまるっと紹介

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東芝エネルギーシステムズの大規模CO2分離回収実証設備

総額111兆円規模となる見通しの2022年度予算の概算要求が出そろった。水素関連などクリーンエネルギー産業の普及拡大、次世代半導体の開発支援などに予算を計上。脱炭素やデジタル化といった社会課題の解決に資するテーマが目立つ。課題解決に向けた諸施策をテコに、経済・産業を活性化する“好循環”を作り出す。また、新型コロナウイルス感染再拡大を踏まえ、医薬品製造所の新設支援やワクチン関連などの予算も手厚くする。(特別取材班)

脱炭素 CO2資源化へ実証加速

政府は7月に決定した概算要求基準で、グリーン化やデジタルなど4分野に優先して予算配分する特別枠を設けた。財務省は公共事業や教育などの裁量的経費について、各省庁に1割の削減を要請。その上で削減額の3倍まで特別枠として要求できるようにした。各省はこの特別枠を最大限利用する。

経済産業省は22年度のグリーン分野の予算として、21年度当初予算比12・5%増の4812億円を盛り込む。二酸化炭素(CO2)を回収し再利用する技術や、水素の社会実装に向けた技術開発などに充てる。

環境省は脱炭素に取り組む民間事業を支援する出資制度を創設する。22年度概算要求で200億円を財政投融資として盛り込んだ。公的資金を呼び水として民間の金融機関からも資金を誘導し、総事業費1000億円規模を目指す。

農林水産省は持続可能な食料システムの構築に向け、カーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)や生物多様性の保全・再生など、環境負荷軽減を推進する「みどりの食料システム戦略」を強化する。22年度の概算要求における関連予算は2176億円に上る。

水素社会へ燃料電池の開発促進

各省が脱炭素施策のカギに位置付けるのが、温室効果ガスへの対応だ。経産省は30年のCO2の回収・貯留(CCS)商用化に向けた研究開発や実証に、前年度当初予算比4割増の85億円を計上。液化CO2の長距離輸送や回収したCO2を材料にしたメタノールの合成などを実証する。

さらに水素社会の実現に向けた燃料電池(FC)の技術開発に87億円を計上。電池部材の標準化による開発の効率化や、大型のFCトラック普及のため高温運転できるFCを開発する。経産省幹部は「脱炭素の実現には再生可能エネルギーとともに、原子力や水素、アンモニアなどの分野で日本の総力を挙げて取り組む必要がある」と強調する。

環境省が出資制度の対象とするのは、再生可能エネルギーによる発電事業、物流拠点の脱炭素化、大気中のCO2吸収を促進する森林整備、木材を使った建築物など。通常だと投資回収が見通せず金融機関が投融資に踏み切れない事業や「初期投資がかかる事業」(担当者)を想定する。

福島県いわき市の水素ステーション

再生エネ利用で自治体に補助

もう一つの目玉政策である「地域脱素移行・再エネ推進交付金」の創設に向けても200億円を計上した。自治体に最大75%の資金支援をし、地域内の民間事業所の再生エネ利用を後押しする。出資制度と交付金の合計は400億円。脱炭素をけん引する官庁としては小規模だが、小泉進次郎環境相は「規模で勝負しない。小さく産んで大きく育てる」と意気込む。

農水省は水産業における持続可能性の確保として、CO2排出量削減に対応した高性能漁船の導入などに前年度比4・7倍の105億円を計上。環境負荷低減にとどまらず、さんまなどの長期的な不漁問題の対策として多目的漁船を導入するなど、新たな操業・生産体制への転換を後押し。水産業の稼ぐ力を高める狙いもある。

国土交通省では50年のカーボンニュートラルの実現に向け、住宅や建築物の省エネ対策強化として1384億円を求めた。最終エネルギー消費の約3割を占める民生部門のさらなる省エネ化が不可欠と判断。建物の建設から居住、廃棄までの一生を通じて脱炭素を実現するライフ・サイクル・カーボン・マイナス(LCCM)住宅などの整備に向け、対策を強化していく。

デジタル化 DX、5G向け重点

企業の生産性や国民生活の利便性向上など、波及効果のすそ野が広いデジタル技術。各省は同分野にもこぞって予算を配分する。総務省はデジタル変革(DX)の加速を重点施策に掲げた。民間のDXでは、高速・大容量の第5世代通信(5G)関連の取り組みが目を引く。例えば5Gの高度化などに資する技術の研究開発に138億円を投じる。

一方、国内情報通信産業の中長期的な国際競争力の強化も必要になる。この観点で、5Gの次の通信システムとして30年頃の実用化が見込まれる「ビヨンド5G」の研究開発に140億円を求める。武田良太総務相は、ビヨンド5Gについて「力を入れている」とし、他のDX関連案件なども念頭に「必要な施策を思い切って前に進めていくため、必要な額を確保していきたい」と意欲を示した。

行政サービスのDXでは、本人認証などに使われるマイナンバーカードの利便性向上や申請促進、交付体制強化に1233億円を計上した。22年度末に、ほぼ全国民へ同カードを行き渡らせるとの目標に向けた措置だ。ただ、21年8月1日時点で交付率は36・0%にとどまっており、施策の実効性が問われる。

利便性と安全性、同時に高める

一方、経産省はDXやサイバーセキュリティー対策など、攻守一体を柱とする施策を打ち立てた。企業の生産性向上や業務効率化だけでなく新たなビジネスモデル構築を後押ししつつ、深刻化するサイバー攻撃への対処に力を入れる。

“攻め”のデジタル化には444億円を要求した。デジタルインフラ整備や次世代人工知能(AI)の開発など、デジタル社会の高度化を推進する。国民生活への恩恵も意識し、IoT(モノのインターネット)や自動配送ロボットを活用した物流効率化やデジタル取引の環境整備にも取り組む。企業単位のデジタル化から業種・地域一体の形を築き、付加価値創出や競争力強化につなげる。一方の“守り”ではサイバーセキュリティー対策に53億円を計上した。サプライチェーン(供給網)を狙う攻撃も増えており、分野横断のガイドライン策定や中小企業対策を強化する。

半導体不足解消へ開発力底上げ

デジタル技術の革新に不可欠な半導体。世界的な半導体不足で各国が開発や生産に注力する中で、日本も半導体に関する最先端技術の開発や人材育成に乗り出す。半導体研究に実績のある大学や国立研究開発法人を中核とした、次世代半導体の創生拠点の整備を計画。22年度の概算要求で文部科学省が新規に9億円を充てる。

光や電子などの先端技術を応用し、消費電力が従来の約100分の1となる半導体の開発などを視野に入れる。同拠点を軸とした産学官連携で、基礎研究から技術実証までの一貫体制を構築する。経産省ともスクラムを組み、産業競争力の強化にも貢献する。

コロナ対応 ワクチン開発加速

コロナ禍で2度目となる予算の概算要求。新型コロナの影響が長期化する中、最大限の支援・対策を講じる。厚生労働省は健康危機管理や災害対応力を強化する。新型コロナを含めた感染症をはじめ、台風など自然災害、テロなど国民の健康に重大な影響を及ぼす案件に対応するため、厚労省内に危機管理オペレーションセンターを創設する。

ワクチン開発は日本経済の回復・発展には欠かせない(イメージ)

危機管理拠点を設置

平時から、情報収集を行うとともに、緊急事態の際の情報集約や意思決定を迅速に実施する体制を整備。22年度の概算要求で2億円を計上した。

外郭団体である医薬品医療機器総合機構の体制も整備する。医薬品製造所の製造管理や品質管理基準の調査、承認申請資料の適合性調査など安全性確認の取り組みを強化する。後発医薬品の品質に対する国民の信頼回復につなげる。

感染症対策の切り札になるワクチン開発にも本腰を入れる。文科省は6月に閣議決定した「ワクチン開発・生産体制強化戦略」に基づき、平時から感染症対策の研究開発を進める。国産ワクチン開発に資する世界トップレベルの研究開発拠点の整備・強化に65億円を計上。中核拠点の構築などを視野に入れる。

既存の「新興・再興感染症研究基盤創生事業」に強化分を上乗せして、総額38億円を盛り込んだ。ワクチンの開発・生産を取りまとめる井上信治健康・医療戦略担当相は31日、「ワクチンの開発・生産は国民の関心が非常に高い。しっかり力を入れて取り組む」と述べた。

日刊工業新聞2021年9月1日

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概算要求

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