日系企業のフィリピン進出、法人税引き下げで加速
フィリピンで法人税を引き下げる「企業復興税優遇(CREATE)法」が4月に発効した。同国ではこれまでも自動車部品などの製造業が多く進出してきたが、新法により企業誘致をさらに拡大し産業の活性化を促す。日系企業は2005年頃から同国へ盛んに進出してきた。米中対立や新型コロナウイルスによるサプライチェーン(供給網)の見直しで展開先を再検討する企業が増えており、再び注目が集まる。(森下晃行)
新法では一定の条件を満たした輸出企業が一定期間タックスホリデーを受けられる。「企業によっては従来制度より長期間受けられる可能性がある」と日本貿易振興機構(ジェトロ)の安藤智洋経済連携促進アドバイザーは説明する。法人税は東南アジア周辺国と同程度の25%程度に引き下げられた。
外務省によると、20年の在フィリピン日系企業拠点数は1418社。「日本からフィリピンへの投資は11年頃がピークだったが、今もポジションは決して低くない」(ジェトロの安藤氏)と、近年は1000数百を維持している。
これまでチャイナ・プラスワンの進出先にはタイやベトナムが選ばれてきたが、タイは人件費が上昇し、少子高齢化が進む。ベトナムは「企業の間で労働者の取り合いが起きている」と住友電装(三重県四日市市)の筒井雅仁専務執行役員は指摘する。
フィリピンはベトナム同様、人件費が安く「中国と比べ年間でおよそ半分」(筒井住友電装専務執行役員)という。さらに人件費の安い国はあるが「90年代からの産業開発により、外資企業が展開しやすい風土が培われてきた」(ジェトロの安藤氏)利点がある。
車載アンテナなどの自動車部品を手がけるヨコオは来春からフィリピンで新工場を稼働させる。同社によると「(15―64歳までの)生産年齢人口が多い」ことも魅力という。
世界銀行(世銀)によると、20年時点のフィリピンの生産年齢人口は7062万人で、全人口の64・4%を占める。
また60年代まで生産年齢人口が増え続けるという試算もある。
フィリピンでマスクを生産する横井定(名古屋市瑞穂区)の横井勇紀取締役は「英語話者が多く、コミュニケーションが取りやすい」と説明する。
一方、課題も残る。ジェトロの安藤氏は「金属や樹脂部品などにサプライヤーが偏っており、製造業が部材を現地調達するのが難しい」と指摘。検査試薬などを手がけるアークレイファクトリー(滋賀県甲賀市)フィリピン法人の穴井秀明社長は「物流や通信インフラが脆弱」と話す。
また、現場で一定年数の経験を積むとすぐに転職してしまう「ジョブホッパー」が多いという問題もある。働き手を中長期的に確保するには企業の工夫が求められる。