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清水建設が超高層マンションの鉄筋不足問題で立ち返った原点

清水建設が超高層マンションの鉄筋不足問題で立ち返った原点

写真はイメージ

「経営者に求められる資質は、少々のことにぶれず動じないことだ」

清水建設の宮本洋一会長は、決断力の重要性を強調する。建設現場では下請けの職人や出入り業者などさまざまな業種の人々でチームワークを組む。

「現場では機械の故障など予想外のトラブルも発生する。船頭が目的地(方針)を頻繁に変えては、こぎ手が嫌気をさす。常に毅然(きぜん)とした態度で対応するのが所長。この経験が経営や業務改革などに生かされてきた」

宮本氏が社長に就任した2007年からの9年間は、大きな出来事に見舞われた。08年のリーマン・ショックをはじめ、09年の政権交代で「コンクリートから人へ」のスローガンが掲げられ公共事業費が減少。11年の東日本大震災による復興需要もあったが、人口減少社会に入り、建設業の先行きは不透明感が増した。そんな状況の下、社長に就任してまもなく超高層分譲マンション工事に鉄筋不足問題が発覚した。

担当者のチェックミスによるものだった。「技能作業員の能力が向上しつつあったため業務を任せきりだった」と自省する。これを機に現場作業員らが、モノづくりを学ぶ「シミズものづくり研修センター」を設置。あわせて“清水建設の祖業は宮大工”という原点にも立ち返った。

「清水の原点は日頃の付き合いを大切にする『出入り大工の精神』で、ひいきのお客さまに、よいものを提供することが使命。清水らしさを忘れてはならない。営業は目先の数字を追いがちだが、そうでない営業もある。数十年ぶりの注文にも感謝する」

かつて渋沢栄一翁が同社の相談役に就任し、経営を指南した。「お上(政府)に何でも従い決めてもらうという風潮の中で、渋沢はそれに頼らない強さがあった。彼の残した『論語と算盤』は当社の社是として、今も受け継がれている」という。

今では当然の考えとなったサステナブル経営を、宮本氏は早い時期から取り入れた。

「コーポレートメッセージ『子どもたちに誇れる仕事を』は、次の時代の財産となる仕事を残すという気持ちを込めた。まさに創業の精神に基づくものだ」

宮本氏は今春、日本建設業連合会(日建連)会長に就任した。固い印象もあるが多才な面をもつ。趣味はカラオケ、オペラ・クラシック音楽の鑑賞などで、舞台では歌舞伎、日本舞踊を披露する。「親しくなるきっかけにもなる」と広い交友関係は“芸のたまもの”のようだ。(編集委員・山下哲二)

【略歴】みやもと・よういち 71年(昭46)東大工卒、同年清水建設入社。03年執行役員、05年常務執行役員、06年専務執行役員、07年社長、16年会長。東京都出身、74歳。
日刊工業新聞2021年8月31日

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