ミャンマーの建設工事の今。中断や一時撤退などゼネコン各社は見直しに着手

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日本政府も新規ODA停止の方針を打ち出している(日本とミャンマーが共同で開発する「ティラワ経済特区(SEZ)」)

長引く混乱、一時撤退やむなし

国内建設業がミャンマー事業の縮小を迫られている。2月に現地で発生した軍のクーデターによる混乱が長期化するのを受けて、駐在員の帰国をはじめ、工事の中断や延期、発注側の計画縮小による営業活動の停止や市民感情に配慮した受注の検討など、事業の見直しに相次いで着手。日本政府も新規の政府開発援助(ODA)停止の方針を打ち出しており、日系企業は一時的な撤退の動きを加速している。(編集委員・山下哲二)

相次ぎ事業見直し クーデターで暗転/人手不足・資機材調達遅れ

日本貿易振興機構(ジェトロ)によれば、2021年3月末時点でミャンマー日本商工会議所に加入する日系企業は426社。11年のミャンマーの民政移管以降、道路、鉄道、港湾、工業団地、複合施設、衣料、食品などのインフラ整備や日系企業の建設需要が高まり、ゼネコン各社が進出した。13年には日本政府がミャンマーに対して26年ぶりに新規円借款を供与。その後もインフラ整備などを目的に円借款や無償資金協力を継続してきた。ただ、今回のクーデターで状況は一変。ゼネコンでは現場作業員不足や資機材の調達遅れなど、抗議デモが続く影響で工事に支障が出ている。

現地の状況について、ゼネコン各社からは懸念の声があがる。鹿島は「大型複合施設の開発事業を進めるが、コロナ禍と政変の影響で現場作業は、仮設の据え付けやのり面の養生など限定的になっている」と説明する。東急建設は作業員や資機材の確保が難しく、施工中のミャンマー国鉄ヤンゴン―マンダレー線改良工事が徐々に縮小。「(今後は)ODA案件の受注も難しくなるだろう」とみる。

フジタも鉄道工事について「発注者やコンサルタントと協議し、社員と作業員の安全確保を一番に考え、必要最小限の工事を続けている」とコメント。戸田建設は「交渉中のODA案件があり、政変により契約時期が大幅に遅れることが予想される。新規ODA案件の中断が報道されているが、すでに複数物件の受注活動に影響が生じている」とした。

受注に悪影響/駐在員帰国も

武力による軍や警察の治安活動で市民に多数の死傷者が出ており、他国の駐在員にも被害者が出たため、日系企業の駐在員の帰国も相次ぐ。

ヤンゴン市内は緊迫した空気が漂う(クーデター前)

清水建設は稼働する現場や着工予定はなく、現地事務所は営業活動や情報収集をクーデター直後に中止。「日本人駐在員1人は日本に退避させ、ミャンマー人スタッフ3人は自宅待機を指示した」という。大成建設は継続が困難な工事について発注者と協議するほか、駐在員3人は順次帰国する予定。大林組は手持ち工事がなく「日本人駐在員は隣国タイに駐在。動向を注視し営業再開を検討する」方針だ。

竹中工務店は最大都市ヤンゴンでODA案件1件を請け負うが工事は中断した。駐在員2人は2月末に帰国済みで現地スタッフを在宅勤務としたほか、現地事務所は一時閉鎖した。飛島建設はヤンゴン事務所に日本人所長が残り、現地スタッフ数人が情報収集している。治安悪化などが予想される場合は、所長の帰国も視野に対応する。五洋建設は「駐在員の一時帰国などは、現地の状況を踏まえながら対応している」という。

現地の銀行機能がまひし、現金の入手が難しい。現地従業員への支払いが滞り、駐在員の生活も継続が困難になっている。

クーデター前は人材が豊富で町中で工事が行われていた

安藤ハザマは銀行窓口の閉鎖で小口支払いに影響が出ている。また、当面は新規受注を見合わせる方針で、「中断した工事を担当する駐在員は順次帰国する。日系企業の営業が中心で活動はできない状況」と認識する。戸田建設は空港工事は継続しているが、未着手の通信管路工事の着工時期については発注側と協議する予定。「工場や病院、商業施設など民間物件でも中長期的な戦略の見直しが必要になるだろう」との見方を示す。西松建設は「騒乱下で民間向けの受注活動を含め、全ての対外的営業を中止している」という。

ゼネコン各社は民間企業への営業活動も凍結状態だ。さらに国連の持続可能な開発目標(SDGs)の観点から企業価値の低下を懸念され、海外投資家や社外取締役からは厳しい指摘が予想される。軍関連企業の取引を避けるため、精査した上で受注することも検討し始めた。

プロ中断、再開めど立たず 在留邦人、800人程度残る

国土交通省によると、ODA案件を含む橋梁・鉄道・道路などのインフラ整備や、ヤンゴン中心部の三つの大型複合施設開発事業など稼働する8プロジェクトのうち、「治安の悪化で3開発事業など4件が中断し、再開のめどは立っていない」という。

在ミャンマー日本大使館は、ミャンマーの在留邦人は2月1日時点で約3500人だったが、「現在精査しており、直近2日の全日空便で100人以上が帰国した」と明らかにした。ヤンゴン日本人会のメンバーらによれば、800人程度がミャンマーに残っているもよう。混乱は長期化するという声が高まっている。

現地の声からのぞく内情…

ヤンゴンの日本人中小企業経営者

飲食関係者はコロナ影響で経営が悪化し、多くが撤退した。今回のクーデターで残ったビジネスマンの帰国も続いている。しかし、中小・零細企業は日本政府の支援もなく、撤退すると戻れる保証がないため、現地に取り残されている。ミャンマーはアジア最後のフロンティアといわれ、日本のODAにも期待していたが残念だ。ただ、市場には魅力がある。ミャンマーの時計の針を元に戻すべきではない

ヤンゴンで日本語学校や宝石店を営むミャンマー人経営者

ミャンマーの大手企業の多くは元軍関係者が経営する。民政移管直前、退役した軍幹部らは、ヤンゴン中心部の公共施設などの跡地に大型商業施設などを建設した。独占・寡占企業が多く、そこと取引しないとビジネスが成り立たないことが多い。民政移管以降、貧富の差が拡大しており、市民が軍に反発する理由だ

日本に留学経験がある美容店の30代ミャンマー人女性店長

かつての軍事政権には絶対に戻りたくないと言う20―30代の若者が多い。このままでは自分たちの未来がなくなると真剣に考えている。この10年、海外からさまざまな情報が入り留学経験者も増え、これまでとは若者の意識が明らかに変わった。日本や国連の助けを期待しつつ、会員制交流サイト(SNS)などを使いながら抵抗している。抗議デモは長期化するだろう

日刊工業新聞2021年4月14日

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