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JFEHD社長「働く人が誇れる会社にする」。胸に刺さる技術者の言葉

社員が活躍し、誇れる会社に

「社員全員が持てる能力をフルに発揮し、初めて総和として会社はプラスの方向に動く」

JFEホールディングス(HD)の柿木厚司社長は、人材の確保や育成に思い入れが強い。大半を管理畑で過ごした“人事のプロ”で、円高不況、バブル経済以降の合理化では社員の新たな働き場所探しに尽力した。

ある食品メーカーへの再就職でかかわった制御系のベテラン技術者が退職時に「誇りを持って入ったのに、この会社に誇りはあるのか」と嘆いた。この言葉が胸に刺さった柿木氏は心に誓った。

「働く人が誇れる会社にする。そのためにも未来に向けて成長し続け、社会と人々になくてはならない存在でなければならない」

前職のJFEスチール社長時代は会議をガラリと変えた。社内がとても暗かったからだ。JFEは旧川崎製鉄、旧NKK(日本鋼管)の統合で誕生したが、「課題を俎上(そじょう)に乗せ経営陣が決める当初の手法に慣れ、何でも上が決めるのが当然の大企業病になってしまった」と振り返る。

そこで会議の数を減らし内容を簡素化。設備投資は金額や案件の程度に応じ意思決定の権限を若手に下ろし、自分たちで考え、決められる範囲を広げた。責任感が高まり組織は活気づいていった。

「人材評価に“ファジーな箱”を持ち、何か物足りない人に評価を下す前、いったんその“箱”に入れて再度チャンスを与えれば、その人は思わぬ能力を見せるもの。人は挑戦を続け、失敗を重ね、教訓を残しながら成功を生み出していく。失敗をある程度許す空気や、挑戦する風土をつくり上げることは経営者の役割だ」

JFEスチールが誕生した2003年、組織人事部長を務めていた柿木氏は「統合できる組織は全て統合する。部長の下に次長は置かない」との方針の下、組織のスリム化を断行。人事担当は「ドライ」との印象をもたれがちで、「憎まれ役」の辛さも味わった。

そんな柿木氏だが「人の話に耳を傾ける」との人物評が少なくない。本人は「“瞬間湯沸かし器”といわれた若い頃、上司にまず話を最後まで聞いて判断するように教えられた」と明かす。

「大切なのはその人に寄り添い、気持ちを考えること。さまざまな価値観を持つ人から多様な意見が出ることで、会社そのものが強くなる」(編集委員・山中久仁昭)

【略歴】
かきぎ・こうじ 77年(昭52)東大経済卒、同年川崎製鉄(現JFEホールディングス=HD=)入社。07年JFEスチール常務執行役員、10年専務執行役員、12年副社長、15年社長、19年JFEHD社長。茨城県出身、68歳。
日刊工業新聞2021年8月13日

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