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【読書の窓】JFE・林田社長が語る、がんと闘った科学者の凄み

JFEホールディングス・林田英治氏
 好んで読む作品には一定の傾向があり、大きく三つに分かれる。一つは心が温まってリラックスできる作品、次に新しい知識が身に付く作品だ。

 三つ目は人としての生き方や物事に対する考え方を振り返るきっかけになる作品で、中でも『がんと闘った科学者の記録』(戸塚洋二著)には感銘を受けた。ノーベル賞候補と注目されながら、がんで2008年に亡くなった物理学者の戸塚先生が、ノンフィクション作家の立花隆との対談をまとめた一冊だ。

 驚いたのは亡くなる直前まであらゆる物事を客観的に観察し、自らの病状ですら感情的になることなく、冷静に分析して対処していたことだ。自身の病気を、ここまで客観的に見つめられるものかと感服した。なかなかまねはできないが、私もいかなる状況に陥ろうと、ゆとりを持って冷静に判断するよう心がけたい。経営者としても自分の会社を、常にクールな頭で客観視しなければならない。

 最近読んだ『島のエアライン』(黒木亮著)も印象深い。熊本県天草市への空港開設に尽力した人々を、実話に基づいて描いた作品だ。天草は航空需要がそれほど見込めず、民間の航空会社も乗り気でないので、地元自治体が中心になって第三セクターの航空会社をつくり、定期便就航にこぎ着けたという。

 経済性だけ考えれば空港は成り立ちにくいが、空港開設は別の効果をもたらした。例えば空港周辺で常駐の医師がいない地域に平日だけ医師が滞在し、週末になったら空路で地元に帰るといった具合に、医療体制が格段に充実したそうだ。

 地域の発展や生活向上のため、執念で大事業を成し遂げた人々の生きざまに、やると決めたら少々の困難があろうと、信念を曲げずにやり抜くことが大切だと再認識した。黒木の著書は傘下のJFEスチールの前身である川崎製鉄の初代社長を務めた西山弥太郎の伝記的小説『鉄のあけぼの』を含めてあらかた読んだが、中でも心に残る一冊となった。

JFEホールディングス社長・林田英治氏
(2018年9月3日)
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
林田社長は、「自分が戸塚先生の立場だったら、取り乱してしまうだろう」と苦笑いする。おそらくたいていの人は、冷静でいられないだろう。状況を客観的に分析するクールな頭と、困難にくじけずに信念を貫く熱いハートをどう持ち続けるか。経営者に限らず、すべての人にとって重い課題だ。(編集委員・宇田川智大)

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