脚光浴びる「農機シェア」。その成否は国内農業の活力を取り戻す試金石になる

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トラクターによる畝立てを見守る農機シェアリング参加者

「農機版CASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化)」の一つ、農機のシェアリングサービスが脚光を浴びている。農業従事者の高齢化や減少が著しい国内農業が活力を取り戻すには、新規就農者の増加が欠かせない。ただ、高価な農業機械への投資負担など課題も山積する。この現状を打破するために登場したのがシェアサービスだ。新サービスで就農の魅力を打ち出せるか。農機シェアリングの現場を探った。(編集委員・林武志)

【京都・茨城で】

7月下旬、京都府亀岡市郊外の農場。トラクターやトラクターに取り付ける作業器具のマルチロータリーなどを囲んで、取り扱いの説明を聞く人々の姿があった。農機国内最大手のクボタが7月から、同市と茨城県つくばみらい市で始めた農機のシェアサービスの一幕だ。

同サービスの会員になると、1時間当たり1980円(消費税込み)でトラクターなどを借りられ、24時間利用できる。操作説明会への参加で会員登録が完了する。利用者は保管倉庫からトラクターを自走で持ち出し、使用後は簡易清掃と給油をして保管場所に戻す流れだ。

参加者の大江広一郎さん(41)は「新規就農者や希望者はトラクターを所持していない人が多い。農機がシェアできる地域は新規就農者にとって魅力的だ」と話す。中嶋大輔さん(48)も「自分が持っていない作業機器をシェアできるので助かる」とサービスの利点を強調する。

トラクターに取り付ける作業機器の使用法の説明を聞く農機シェアの参加者

一方で森田信行さん(41)が「雨の予報で急に畝立てが必要になることもある。その場合、シェア希望が重なる」と指摘するように、需給が逼迫(ひっぱく)するケースも想定される。また「種まき機など機器が増えれば新規就農者が取り組む農業の規模拡大につながる」(森田さん)との見方もあり、機器のラインアップ拡充が今後の課題だ。

農機の代表選手であるトラクターの価格は、10馬力程度の低馬力帯でも100万円超となる。農作業に応じてトラクターに取り付ける作業機器も必要となるため、個人の就農希望者がそろえるにはハードルが高い。

【障壁取り払う】

クボタは初期投資やメンテナンスの負担減などで、新規就農の障壁を取り払う考え。農業に挑戦する人を増やして将来の担い手を育成し、日本農業の活性化を後押しする。

自動車業界で進むCASEの流れに呼応するように、農機でもIoT(モノのインターネット)や自動運転、電動化に向けた開発が緒に就いた。新規就農者の費用負担減につながる農機シェアもこれからが本番。最大手のクボタが先陣を切ったことで、農機各社の追随が期待できる。気軽に借りて使えるシェアリングの成否は、新規就農増と農機のCASE実現に向けた試金石となりそうだ。

インタビュー/クボタイノベーションセンター企画第二課長・松元康史氏 シェア拠点で担い手育成

クボタの農機シェアリングを主導するのが、19年に設立したイノベーションセンターだ。同センターの松元康史企画第二課長にシェアの導入経緯や課題などを聞いた。

―亀岡市と、つくばみらい市で農機シェアを始めた経緯は。

「一番は農業の新規参入者への支援だ。つくばみらいは(地元自治体の理解を得やすい)当社の筑波工場がある。亀岡は市に話を聞く中、支援への思いが同じ向きだと感じた」

―20年に実証実験を岡山県、茨城県南部・千葉県北部で実施しています。

「農機を置く拠点の周囲に、新規参入で多い野菜作をする人が最低でも5人程度集まらないと事業として成り立たない気付きがあった。(農機の公道走行は一定条件を満たす必要があり)拠点と農場が離れていると、使用者自らトラックで運送する必要があるのもシェア拡大の壁になる」

―農機を置く拠点の位置付けについては。

「拠点が核となり、『シェアできるなら、ここで農業をしてみよう』と新規参入者を呼び込む流れを生む。核が増えると将来的には農機を融通し合うこともできる。亀岡でも拠点増の可能性を探る」

―課題の認識は。

「(種まきや収穫で)農機を使う時期が重なること。拠点が増えると、近隣地区同士で使用時期をずらせば解決できる。1拠点での台数増も選択肢だ。新規参入者が農業の担い手になるのを“伴走”しながら支援し、我々も一緒に成長したい」

49歳以下の新規就農者、4年連続前年割れ 農水省調べ

農林水産省の調査によると2019年の新規就農者は、前年比0.1%増の5万5870人、このうち49歳以下は同3.9%減の1万8540人となった。働き盛りである49歳以下の前年割れは4年連続だった。

就農形態別の新規参入者は同1.2%減の3200人で、49歳以下は同3.8%減の2270人。新規参入の部門別では露地野菜作が960人と最も多い。次いで施設野菜作が640人、果樹作が620人となる。自身が新規就農者でもある農業系シンクタンク、アグリメディア研究所(東京都目黒区)の中戸川誠所長は「野菜作が人気なのは収益性が高いため」と分析する。

アグリメディア研究所所長・中戸川誠氏 歳を重ねても現役が魅力

4年前、農業政策の取材を担当する大手紙記者から、新規就農支援や遊休農地を活用する農業ベンチャーに転職した。霞が関の記者クラブに缶詰となって大所高所から政策を批評する記事を書いていたが、もっと現場に根ざして多様な農業を捉えてみたいと思った。

以来、専業農家、週末農家、消費者、不在地主、行政機関、農業団体、参入企業、資材メーカーなど、あらゆるステークホルダーとの対話を通じ農業活性化策を考えてきた。昨年10月には長野県諏訪市に移住し、兼業でトマトなど10種類程度の野菜を生産し始めた。

その経験から言うと農業の魅力は“終わりがない”ことだ。農作業の負荷を下げるスマート機器も相次いで登場し、歳を重ねても現役でいられる環境は整っている。時間を持て余し気味の定年退職後の男性などは心機一転、この世界に飛び込んでもらいたい。(談)

亀岡市産業観光部農林振興課課長・松本英樹氏 オーガニック野菜にも最適

今回農機シェアを実施する亀岡市旭町は、他地域からの新規就農者が多い場所でもある。そうした方々から農機購入など初期投資がかかる点を聞いていた。市としても農機を借りる場合、1時間当たり5000円程度必要なところを2000円以内でできるように支援することを決めた。シェアへの参加を新規就農者に限らずベテラン農家にも促し、生産効率向上に役立ててほしいと考えている。

市内にシェア拠点は現状1カ所だが最終的には何カ所か増やしたい。亀岡は“京野菜”のブランドがあり、一大消費地の京都や大阪にも近く、畑作の新規就農希望者が多い。ただ、大枠では農家や就農者は減少し高齢化も進んでいる。そんな状況だからこそ、亀岡に移住する新規就農者への支援は重要だ。

亀岡市はプラスチックゴミゼロ宣言を出しているように、環境先進都市のイメージができている。オーガニック野菜などをやりやすい環境が整う地域としても、就農希望者を呼び込みたい(談)

日刊工業新聞2021年7月30日

キーワード
農機シェアリング

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