新浪剛史・サントリーHD社長。たどり着いた境地「経営はアート」とは?
人の思い、感覚的に見抜く
「経営はアート」。これまでさまざまな企業の経営に携わった、サントリーホールディングス(HD)の新浪剛史社長がたどり着いた境地だ。
「経営は人と人のぶつかり合いであり、コラボ(することだ)。人間は経済学だけでは分析できないし、人間の行動はサイエンスや統計だけでは語れない。人の思いを感覚的に見抜けるかどうかだ」
理屈だけでは割り切れず、結果に直結しない、不可抗力のようなものを感じている。
大学卒業と同時に三菱商事入社、10年目にMBA取得のため米国に留学した。帰国後、あふれる野心とバイタリティーをもって病院給食の会社を起業。以降、キャリアのほとんどが社長という根っからの経営者だ。
「社長だから大枠だけ分かっていればいいものではなく、これと思ったことはディテールにこだわることが大事。それには情報をいろんな人から聞き、話してもらえる人間になることが重要になる」
そのため実践しているのが、自ら現場に足を運ぶこと。これはダイエー創業者の中内功氏から学んだ。25歳の時に参加した勉強会が縁で、中内氏から薫陶を受けた。
「中内さんは好奇心旺盛で、いつも店頭を見て回っていた。また小売業界だけでなく、世の中がどう動いているか、世界がどう動いているかに関心が高かった。若い頃からいろんな経営者に出会えたことが、アセットになっている」
その後、経営が傾くダイエーを支援するため、当時は同社子会社だったローソンに三菱商事が出資したことを機に43歳の若さでローソン社長に就任。ローソンと業界首位のセブン―イレブンの店舗を何度も見て両社の本質の違いを探り、おにぎりに勝機を見いだした。解決策が見えると、おにぎりに経営資源を集中。ローソンをV字回復させ、中内氏に恩返しを果たした。
昨年には2度目となる経済同友会副代表幹事に就任するなど、財界活動も板についてきた。中内氏をはじめ名だたる経営者と身近に接し分かったのは「自分が井の中の蛙」ということ。それは今、サントリーの社員に対しても強く思うことだ。
「世界にはネスレやユニリーバがいて、サントリーの成功の度合いはまだまだ。外をもっと見て、上には上があることを知るべきだ」。そして自ら「コロナ禍が明けたら、海外の現場に足を運びたい」と、世界を見据える。(高屋優理)
【略歴】
にいなみ・たけし 81年(昭56)慶大経済卒、同年三菱商事入社。91年米ハーバード大経営大学院修了、経営学修士(MBA)取得。95年ソデックスコーポレーション(現LEOC)社長。02年ローソン社長。14年サントリーHD社長。神奈川県出身、62歳。