「ずっと稼げる事業はない」。AGC会長が語る創造力の重要性

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“ワンチーム”成長の姿を共有

「一人はみんなのために、みんなは一人のために」。小学4年生だったAGCの島村琢哉会長は、担任教師が黒板に書いた言葉に大きく目を開いた。6年間、全社“ワンチーム”で取り組んだ企業変革と経営スタンスにつながる最初の言葉だ。

社長に就任した2015年、同社は10年の過去最高益から短期間で利益が急減する緊急事態にあった。原因は大黒柱だったテレビ用ガラスの収益性低下。止血が急務の局面で、島村会長は腹を決め、まず「内向的な社内の雰囲気を変える」ことに取りかかった。社員全員の目を次の成長へ向けるためだ。

「企業が30年続く確率はたった0・02%。ずっと稼げる事業はない。苦しい時も次を産む努力を続けなければいけない。人は歯車や資源ではなく、創造力の主体だ。会社や社会で尊厳を持たせ、一人ひとりが自信を持てば、どんどん新しいことに挑戦する」

人が持つ力を誰よりも信じる島村会長のもと事業変革を成し遂げ、今ではライフサイエンスなどの戦略事業が成長し、景気変動に強い会社となった。

管理職や若手社員、製造現場などさまざまな人と行った少人数ミーティングは年に百数十回。今でも若手に「合宿に来てほしい」と言われれば、酒を持って参加する。

「トップと働く人たちが『どうありたいか』を共有することが成長の基盤。会社はトップダウンとボトムアップの接点から経営されるべきだ。フランクな付き合いができるのはいいことで、組織の力になる」

同社の代名詞で、新事業の探索と既存事業の深化をバランス良く行う「両利きの経営」は、企業変革の中で自然に培われた。「未来を想像し、どんな素材が必要か、技術を生かせるか考え、実行する。当たり前のことを愚直にやった」と事もなげに言う。

ただ、多くの会社にとって当たり前が難しい。「明治維新をはじめ、一人ひとりがリーダーシップを持って挑戦し、試行錯誤するのが日本の文化。欧米流の失敗しないマネジメントが広がり、野性的な創造性が弱くなっている」と指摘する。

迷ったら「原点」に戻る。原点は「必要とされるから売り上げがある」こと。事業環境が変わっても、働く人の尊厳を根幹にし、必要とされる会社を追求する限り、迷わない。

「リーダーとして『人の心に灯をともす』努力をし、社内に変化するエネルギーを生み出す。原点を取り戻せば、日本はまだまだ何でもできる」と、次代にエールを送る。(梶原洵子)

島村琢哉会長

【略歴】しまむら・たくや 80年(昭55)慶大経済卒、同年旭硝子(現AGC)入社。09年執行役員、13年常務執行役員、15年社長、21年会長。神奈川県出身、64歳。

日刊工業新聞2021年5月18日

キーワード
AGC 経営哲学

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