「環境問題と安全対策は使命」と語るコマツ会長の経営哲学
環境問題・安全対策は使命
ソフトな語り口の中にも秘めた反骨心を宿す―。コマツの大橋徹二会長は目先に惑わされず、常に人より先を見据えて歩みを進めてきた。大学時代は数理工学を専攻、同期の多くが華やかな有名企業に就職する中で「大きなものを作る仕事がしたい」と、当時はお世辞にも知名度が高くなかった小松製作所(現コマツ)に入社。同期会でも肩身の狭い思いをしたという。今やグローバル企業に成長した同社を見れば当時の選択が正しかったことが分かる。
新人時代に先輩たちに強く言われたことは「現場を見たのか」「実物はどうなんだ」ということ。耳学問ではなく現場の事実をもとに対策を考え、実行する姿勢を習得した。そして何よりも品質を重視するようになる。
「品質管理は浸透するまでに長い時間がかかる。従業員と膝を割って話し合い、きちんと利点を納得して取り組んでもらう努力が必要」
この心得は、04年のコマツアメリカ社長就任の際に生きた。鉱山不況に加えコマツアメリカはマシントラブルが続出し、多額の赤字を抱えていた。大橋会長は工場はもちろん、開発部門や販売部門、代理店に至るまで品質管理の重要性を足で回って強調。浸透させたことで「コマツは何かあると、すぐ従業員が来てくれる」と高サービス体制が評判になり、直後に鉱山不況が回復、コマツには注文が殺到してV字回復に成功した。
米国スタンフォード大学大学院に留学するなど、20代のころから将来の幹部候補として目をかけられてきて、13年には社長に就任。だがこの年、株価が急落し“コマツ・ショック”とも言われた。大橋会長は、目先の業績に反応する株価やメディアの報道に不満を持ちつつも、持ち前の反骨心で乗り切った。
「どんなに批判されようが、中長期の目線で投資や戦略を立てている」
「環境問題や安全対策に取り組んでいくのはコマツの社会的使命」という思いと共に、最近はブランドマネジメント強化にも注力している。一般消費者向けと違い建設機械の客は企業。
「最終的に当社製品を選んでもらうには何が必要か。客の悩みに寄り添い、一緒に解決策を考えていくことが大切だ」
会長になってからは小川啓之社長をサポートしつつ、経団連の副会長も務めている。経営者としての幅広い経験値と「義」を重んじる性格から、財界活動でも貴重な存在になっている。(編集委員・嶋田歩)
【略歴】
おおはし・てつじ 77年(昭52)東大工卒、同年小松製作所(現コマツ)入社。82年米国スタンフォード大大学院工学部留学、04年コマツアメリカ社長兼COO、08年常務執行役員生産本部長、09年取締役常務執行役員、12年同専務執行役員、13年社長、19年会長。千葉県出身、67歳。