NEC会長の経営哲学「強い意志と柔らかな心」とは
「Strong Will(強い意志)、Flexible Mind(柔らかな心)」。
遠藤信博会長がモバイルワイヤレス事業部長の時から、20年近く言い続けてきた言葉だ。Strong Willは「新たな価値を創造する力」を生み出す源泉とし、2010年の社長就任以降、NECの文化として根付かせようと尽力した。Flexible Mindは「異なる価値を楽しむ心」を示す。
「道端に咲く花に気付き、美しいと感動する心が大事。そういった心の柔らかさを持てば、周囲の人の話を素直に受け入れられる。(客先の“隠れた声”を捉える感受性を高めることで)人間社会の本質的な欲求を感じ取ることにもつながる」
遠藤氏が社長に就任した当時、NECは事業再編の真っただ中にあり、経営は大揺れだった。以前のNECは、トップが変われば会社の目指す方向性が変わることもあった。だが、経営改革で大なたを振るわざるを得ない状況が続く中で、新体制が目指したのはトップが変わっても揺るがない経営基盤の確立。「企業にとって一番重要なのは継続性だ」との認識に立ち、「事業は人、企業は文化」というメッセージを発信した。
求道者のようにとことん突き詰めて考えるのが遠藤流。企業の役割についても同様だ。
「人間社会の持続性に貢献する価値を創造する場と、人が活躍する場の提供の二つがある。時代の趨勢でプロダクトが死んでも、価値創造力さえあれば新たに価値あるものを作り、企業としての継続性は保たれる。それには文化が必要。よい文化を残しておけば100年先も継続できる」
社長時代には役員と月1回・1泊2日で合宿して議論を交わしていた。最初の合宿で文化をテーマとしたら「こんな苦しいときに、なぜそんな話をするのか」との意見にもこう一喝した。
「文化を皆で共有できなければ継続はない。事業が安定してからでは意味がない。今始めないと、だめだ」
1泊2日の合宿のメンバーには経営を引き継いだ新野隆氏(現・副会長)と森田隆之氏(現・社長)もいた。
現職では経済団体などの対外活動や講演活動が中心。講演では茶道や武道の修業の過程で知られる「守破離(しゅはり)」を例に挙げ、自律した経営者への道を説く。求道者から伝道師となり、後進に経営哲学を伝える日々だ。(編集委員・斉藤実)
【略歴】
えんどう・のぶひろ 81年(昭56)東工大院理工学研究科博士修了、同年NEC入社。06年執行役員、09年取締役執行役員常務、10年社長、16年代表取締役会長、19年取締役会長。経済同友会副代表幹事、日本経団連審議員会副議長なども務める。神奈川県出身、67歳。