30年度に温室効果ガス71.4%削減。環境目標を大幅に強化した富士通の決意
執行役員常務チーフ・サステナビリティー・オフィサーの梶原ゆみ子氏 負の遺産残さぬために
富士通は2030年度までに温室効果ガス排出量を13年度比71・4%削減する新たな環境目標を公表した。17年に設定した33%減からの大幅な強化だ。事業で使用する電気に占める再生可能エネルギー比率も30年度に40%へと拡大する(19年度は8・4%)。「若い世代に負の遺産とならないために長期視点で決めた」と語る梶原ゆみ子執行役員常務チーフ・サステナビリティー・オフィサーに決意を聞いた。
―30年度の目標を71・4%減へ強化した狙いは。「産業革命前からの気温上昇を1・5度C未満に抑える『1・5度目標』が世界で共有されている。富士通も1・5度目標に求められる削減ペースと整合させ、71・4%減に見直した。従来の33%減に向けた取り組みで欧州や北米の拠点は再生エネの購入が進んだ。国内が足踏みしているわけにはいかない。高い目標を掲げ、より積極的に取り組む」
「2050年に排出ゼロを達成する目標は変えていない。もし33%減のままだと50年に近づくと大幅な削減が必要となる。これから活躍する若い世代に負の遺産とならないために30年までの行動が大切。1年単位で評価する時代ではなくなっており、長期視点で目標を厳しくした」
―50年を待たずに脱炭素達成を目指す海外IT企業も意識しましたか。「海外の巨大企業は再生エネが供給されるのを待つのではなく、自らが発電者になって発電所を作り、自分たちの電気を賄おうとしている。国内には『日本の再生エネは高い』という声があるが、私たちも自分たちで変えていかないといけない。経営層にも1・5度目標で動いている世界の動向を説明した」
「発電所が分かる国際基準に合致した再生エネであり、地域経済に貢献する再生エネを購入しようとしている。コスト削減が目的なら再生エネに切り替えない。社会の持続性を考えてのことだから、経済合理性だけで判断しない領域だろう。10年後の人たちが正しい投資だったと評価してくれるのではないか」
―気候変動対策に遅れると、どのようなビジネスリスクがありますか。「環境関連の法令が厳しくなると商品・サービスを提供できなくなる恐れがあり、対応が必要だ。もし、私たちが気候変動に関心がなくても、競合は対策を進めていく。環境が評価軸なのだから、市場では競合が選ばれるだろう。これから社会が変化すると分かっていながら、対応しないとツケが回ってくる」
記者の目/日本が動きだした印象を世界に
菅義偉首相が国の目標を13年度比46%削減に強化したことについて「日本が動く強いメッセージ」と感想を語った。富士通の新目標も、同社が環境問題に真剣に向き合う姿勢を示したと思う。日本の再生エネの調達環境について「自分たちで変えていかないといけない」と語った言葉に力強さを感じた。他社も巻き込み、日本企業が気候変動対策に動きだした印象を世界に届けてほしい。(編集委員・松木喬)