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量子技術で世界へ、オールジャパンの協議会が背負う期待

「量子技術による新産業創出協議会」設立発起人会が始動した。産学官の力を結集して、量子技術の産業化や社会実装を加速し、先端領域でわが国が再び世界に打って出る。カギとなるのは産業界が持つ多様な“ニーズ”と、量子技術をリードする先進企業や研究者が持つ“シーズ”をつなぐ場。オールジャパン体制による協議会設立がそのスタート台となりそうだ。(編集委員・斉藤実)

量子技術は量子コンピューターや量子暗号化、量子通信、量子計測・センシング、量子マテリアルなどの研究テーマがあり、それぞれに目指すべきゴールがある。実用・産業化に向けた時間軸もそれぞれ異なり、テーマごとに5―10年、20―30年先などの中長期のロードマップ(行程表)が必要だ。

量子技術をめぐっては欧米や中国勢が覇権争いで火花を散らし、巨額な研究費用を投じている。わが国も「量子技術イノベーション戦略」に基づき、量子技術の国際拠点づくりに着手したところだ。こうした取り組みを産業界の力をテコにいかに加速させるか。協議会が担う大きな役割はまさにそこにある。

発起人会はJSR、第一生命ホールディングス(HD)、東京海上HD、東芝、トヨタ自動車、NEC、NTT、日立製作所、富士通、三菱ケミカルHD、みずほフィナンシャルグループ(FG)の国内11社が参画。電機、通信、金融、製造などの幅広い業界から、そうそうたる顔ぶれが名を連ねた。各社はそれぞれに得意領域で量子技術に取り組んでいるが、単独では研究開発から社会実装までを網羅することは難しい。共通の課題を持った企業と実証実験を進めようにも個別交渉では限界がある。このままでは米グーグルや米IBMなどの世界の競合との差が開く一方だ。

企業の枠を超えた交流の場では「学会」活動があるが、量子関連の学会への参加はごく限られている。電機系のベンダー企業からは「学会に参加してもユーザー企業との接点がほとんどない」との声もある。

求められるのはベンダーとユーザー、学界の研究者らがそれぞれの課題を出し合って、シーズとニーズを結び付ける場づくりであり、産業界主導の協議会への期待は大きい。

また、量子技術の全体像を俯瞰(ふかん)できれば、国による研究資金の投入でも的を絞りやすい。ある量子技術の研究成果を別の量子技術に応用し、さらに発展させる、といった領域横断型の研究戦略も視野に入る。

量子技術は国力を左右する。量子暗号・通信は国家安全保障の根幹にもかかわる。技術流出を防ぐための知財管理の枠組みも不可欠。量子技術の研究者の数を増やし、育成する施策も急がれる。協議会はこうした課題に対して、大所高所から向き合うことになりそうだ。

日刊工業新聞2021年6月1日

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