「水晶部品」製造で新技術、10年越しの開発で日本が競争優位を確保
電子機器の動きをつかさどる水晶部品の製造技術が新たな段階に入った。従来は機械加工による生産が主流だったが、半導体の製造法を活用し、従来より小型で薄い水晶を作る量産技術を日本の水晶メーカーが約10年越しで開発した。第5世代通信(5G)対応スマートフォン用の水晶部品は新製法以外で作るのが難しいとされる。低価格品で攻勢をかけていた台湾などの海外勢は新製法での量産に成功しておらず、日本企業は技術による競争優位を再び確保した形だ。(山田邦和)
「産業の塩」
水晶部品はスマホや自動車の電子制御ユニット(ECU)、時計などの内部で、他の部品が正確に動くための基準信号をつくる。水晶の切片に電極を付けた水晶振動子に電圧をかけると震える性質を利用したもので、多くの機器に不可欠なことから「産業の塩」と呼ばれる。
水晶振動子は切断や研磨など機械加工による製造が主流。だが、日本メーカーは並行して「フォトリソブランク加工」と呼ばれる新たな量産化技術の開発に取り組んできた。
フォトリソ加工は半導体などの製造でも欠かせない技術。人工水晶から切り出した円盤状などの板の表面に金属膜や感光剤を重ねた後、写真の露光技術を応用して小さな水晶片を形成する。
水晶専業大手の日本電波工業が「バッテリー以外のスマホ部品は小型化の要請が進む」(竹内謙執行役員)と開発に着手したのは10年以上前。約5年前に量産化できたが、4Gスマホでは「機械加工品も部品仕様を満たしており、フォトリソ加工品の優位性は高くなかった」(同)。
6割超小型化
潮目が変わったのは、5Gスマホが普及し出した2020年。高周波に対応するため水晶振動子の厚みを約0・5ミリ−0・6ミリメートルに薄くし、同時に約1ミリメートル四方と4G向けより6割以上の小型化も進める必要があった。日本電波工業の加藤啓美社長は「機械加工でも生産できるが、歩留まりが悪く採算が合わない」と話す。現在までに同社や大真空が、半導体大手から5Gスマホ向けの認定を受けたと発表している。
水晶部品はスマホが携帯電話の主流になってから仕様の標準化が進み、台湾TCXなど海外メーカーが低価格で市場に参入。日本メーカーの業績は悪化した。
だがフォトリソ加工は、バラつきの少ない均一な水晶板を加工したり、高純度の人工水晶を育成したりする技術などノウハウの塊で、日本企業はしばらく先行優位を維持できそうだ。
20年ぶり商機
足元の水晶振動子の平均大口価格は1個15円前後と、前年同期より約15%上昇。一部の国内水晶メーカーでは、従来型携帯電話(ガラケー)向けで高い競争力を誇った2000年代前半以来、約20年ぶりの事業機会が到来しつつある。