真空中の「アウトガス」による性能低下、JAXA×日本電波工業が防止に挑む

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QCMセンサー

「コンタミネーション」という現象をご存じだろうか。業界により意味合いが変わるこの用語、宇宙業界では「意図しないガスの凝縮・付着による汚染と、それによる影響」を指す。真空中では、材料から「アウトガス」が放出され、それが低温面に到達すると凝縮・付着し、性能低下などの悪影響を及ぼす。

この現象を正確に測定するためのデバイスが「QCMセンサー」である。QCMはQuartz Crystal Microbalanceの略で、日本語では「水晶振動子微小天秤(てんびん)」と呼ばれる。ナノグラムレベル(ナノは10億分の1)という精密な質量測定が可能だ。

ただ、一つ課題がある。それは、温度依存性である。コンタミネーションは凝縮により顕在化するので、温度は重要な因子である。そのため、QCMセンサーを測定したい温度に制御する必要がある。しかしながら、水晶振動子の共振周波数は、強い温度依存性があるため、広い温度範囲で利用するためには、対策を講じる必要がある。

広い温度範囲

そこで、一つのQCMセンサーの中に、「参照用センサー」と「計測用センサー」の二つの発振部を実装し、計測用センサーのみにコンタミネーション物質を付着させている。両センサーの差分信号から、任意のセンサー温度での付着量を正確に計測することが可能となる。

従来、宇宙分野向けQCMセンサーは、外国企業製品で占められており、入手性や性能などの課題があった。そこで、宇宙航空研究開発機構(JAXA)は水晶デバイスの専業メーカーである日本電波工業と共同で「Twin―QCM」を開発した。

従来品は、2枚の水晶板を用いているのに対し、Twin―QCMは、1枚の水晶板に二つの発振部を形成することで、センサー間の特性差を除去したことに加え、水晶板表面に温度センサーを実装することで測温の正確性が向上し、計測誤差を劇的に低減して、性能向上を実現した(特許技術)。温度制御も可能で、ヒーターを内蔵した「Twin―CQCM」、ペルチェ素子を内蔵した「Twin―TQCM」の2種をラインアップしている。

国内外で導入

これにより、幅広い温度における正確な測定が可能となり、コンタミネーション防止のための人工衛星用材料選定に大きく貢献している。Twin―QCMは、国内外の宇宙関連機関などで導入が進んでいるほか、民生分野においても材料特性の把握、大気圧下での利用など、さまざまな応用を目指している。今後の展開に注目していただきたい。

◇研究開発部門第一研究ユニット主任研究開発員 宮崎英治

北海道出身。1998年入社。宇宙で使う材料の研究に携わるとともに、アウトガス、コンタミネーションの研究にも従事している。最近は、社会科学系の研究チームに参画し、国立研究開発法人の評価についても考えている。趣味は、ラジオ番組を聴くこと、作ること。

日刊工業新聞2020年11月16日

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