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大口径GaN基板を量産化へ。三菱ケミカルがEVの新たな可能性を切り開く

大口径GaN基板を量産化へ。三菱ケミカルがEVの新たな可能性を切り開く

パイロット設備で育成した4インチGaN結晶

三菱ケミカルなどが大口径の窒化ガリウム(GaN)単結晶基板の量産化にめどを付けたことで、走行中に電気自動車(EV)を非接触充電する次世代EV技術が実現に近づいてきた。同基板はより大電流動作が可能な高耐圧パワー半導体を実現でき、電子機器などを効率化、小型化できるからだ。新素材がEVの新たな可能性を切り開く。(梶原洵子)

走行EVを充電

現在パワー半導体はシリコンや炭化ケイ素(SiC)基板上にGaN結晶を成長させたエピタキシャルウエハーが主流。大口径GaN基板が量産化されると、GaN基板上にGaN結晶を成長させ、より結晶欠陥の少ない基板を用いて高性能なパワー半導体を生産できるようになる。

このGaNオンGaN基板は、次世代EV技術に対して大きなインパクトがある。三菱ケミカルのガリウムナイトライドセクションリーダーの藤戸健史氏は、「走行中のEV非接触充電システムや、ホイールに駆動用モーターを格納したインホイールモーターに、GaNオンGaNが必要になる」と指摘する。

同社は日本製鋼所と共同で北海道室蘭市に2、4、6インチの基板を生産できる量産実証設備を設置し、2022年度初頭から市場へ供給を始める。同設備で採用した「液相成長法」は、従来の気相成長に比べ欠陥密度を100分の1から1000分の1に抑えられる。同技術の実現には、製造条件の大きなブレークスルーが必要で、約10年を要した。

単結晶を再析出

液相成長法は、高温高圧下で超臨界状態にした液体アンモニアにGaN多結晶を溶かし、そこから単結晶を再析出させる。従来はGaNを溶かすため2000気圧に高めていたが、大型装置はこの気圧に耐えられない。そこで三菱ケミカルはアンモニアに添加する鉱化剤を工夫し、「1000気圧下で大量のGaNが溶けるようにした」(藤戸氏)。

低圧にしたとはいえ、1000気圧に対応する大型装置の開発は難しく、水晶の結晶合成技術や大型装置技術を持つ日本製鋼所との協力で実現できた。

藤戸氏は、「研究を始めた当初は結晶を成長させるどころか、圧力装置を開けると結晶が消える状況が2年も続いた。大型装置までたどり着いたのは感慨深い」と振り返る。

デバイス進化

既存の気相成長によるGaN基板は00年代に開発され、ブルーレイディスクの光ピックアップ技術の実現に寄与したが、大きさは2インチ止まりで用途も限定的。液相法による大口径化で次世代EV技術やモーター小型化、高出力・高輝度光源、情報通信分野のデバイス進化に貢献することが期待される。


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日刊工業新聞2021年6月15日

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