ニュースイッチ

CASE進展で大変革期、部品メーカーの生き残りを左右するもの

CASE進展で大変革期、部品メーカーの生き残りを左右するもの

フタバ産業は部品単体の生産だけでなく、車体構造設計の提案に力を入れる(同社のフロントピラー)

脱下請け、完成車メーカーに提案

自動車部品各社が中期経営計画でCASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化)への対応を強化する方針を相次ぎ打ち出した。電動車の電力消費率改善に貢献する部品の小型軽量化を追求するほか、開発領域を広げて部品の付加価値を高める取り組みにも乗り出す。世界的な脱炭素のうねりを受け完成車各社が電動車戦略を加速する中、変化に柔軟に対応して生き残りを図る。

「自動車メーカーは(CASEなど)先進分野に経営資源を振り向け、基本的な技術領域は部品専門メーカーに任せる動きになってきている」。ヨロズの平中勉社長は車メーカーの要求の変化をこう分析する。

同社は2023年度までの中計で強みの成形技術を生かし、サスペンション部品を従来比15%以上軽量化する目標を掲げた。具体的には引っ張り強度980メガパスカル級の超高張力鋼板(超ハイテン)や、鋼板とアルミニウムや樹脂を組み合わせたハイブリッド構造の採用などで実現する。21年度の研究開発費は約52億円と前年度並みを維持する。

シートメーカーのタチエスは後席向けシートフレームの標準化と従来比20%の軽量化に取り組む。同フレームはこれまで車種に応じ個別に開発していたが、いくつかのパターンに集約することで「価格競争力と重量低減を達成し、他社を上回る製品開発を進める」(山本雄一郎社長)。

開発領域を広げる取り組みも進む。

車体骨格部品を手がけるフタバ産業は部品単体の生産だけでなく、周辺の車体構造の設計を含めた提案に力を入れる。トヨタ自動車の協力も得て設計ノウハウなどを吸収。車両開発工程の上流に入り込むことで視野を広げ、自社の部品の付加価値向上に役立てる。「技術力が生命線」(吉貴寛良社長)だけに、トヨタ向けなどで培った技術力を生かし、完成車の要求仕様に応じた部品を納める従来ビジネスからの飛躍を目指す。

ユニプレスは電気自動車(EV)向け商品の独自開発や提案に乗り出す。開発品を自社で評価するため関連の評価設備を導入し、目標設定から仕様開発まで一貫して手がける体制を整備する。これまで自動車メーカーから提示された目標性能に基づき最適な仕様を開発していた。開発の効率や商品の提案力を高め、拡大するEV需要を取り込む。

自動車業界はCASEの進展で“100年に1度”の変革期を迎える。部品各社には専門性を生かして開発領域を果敢に広げ、自社商品の付加価値を高める取り組みが競争力を左右しそうだ。

収益改善で投資余力

自動車部品各社が収益体質の強化を急いでいる。固定費削減、拠点再編、デジタル変革(DX)推進などで事業の効率化を図る。自動車業界はCASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化)対応が求められ、投資が膨らむ。改善を積み重ねて成長投資を確保し、「100年に1度」の変革期に対応する。

「車の生産台数が変動しても安定した収益を上げられる企業体質に変換していくことが重要だ」。ヨロズの平中勉社長は現状をこう認識する。同社は主要取引先の日産自動車の拡大路線転換もあり、2020年度の当期損益は61億円の赤字となった。

収益改善への最大の課題は、生産設備の減価償却費が大半を占める固定費の削減だ。23年度まで3年間の中期経営計画では、金型を含めサスペンションの生産設備をすべて内製する強みも生かして原価の作り込みを徹底し、売上高固定費比率を20年度をピークに引き下げる。また設計変更を含め改善の自由度が高い車両開発の上流工程での提案に力を入れる。

タチエスも取引先の自動車生産台数減少の影響を受け、20年度の当期損益が137億円の赤字に陥った。16年度から世界でシート工場など九つの拠点を立ち上げたが、個別開発の増加などで事業効率化が低下し、利益を圧迫した。

21年度から日本、北米、中南米で工場や事業所の再編に着手。山本雄一郎社長は24年度まで4年間の中計を事業再生や強化の期間と位置付け、「収益構造や資産効率の改善で基盤を再構築する」と覚悟を示す。

トヨタ自動車系中堅部品メーカー各社は、専門組織を設けるなどしてDXの推進に力を入れる。

東海理化は2月に「DX推進タスクフォース」、フタバ産業は5月に「DX推進室」を設立した。フタバ産業の吉貴寛良社長は「全社横断的に進めていく」としており、製品開発期間の短縮などさまざまな効率化につなげる狙いだ。

中央発條はデジタル技術を活用して生産や事務部門の効率化に取り組む。生産性の向上などにより、25年度に営業利益を20年度比4倍の50億円に引き上げる。

ファインシンターもIoT(モノのインターネット)などを活用し、24時間連続して無人稼働が可能なモデルラインの構築を予定。海外にも順次展開する。井上洋一社長は「IoTや人工知能(AI)などを使って徹底的に無駄を減らす」と力を込める。

電動化や自動運転に対応した新製品の開発、シェアリングで使われる車両に合わせた部品の改良―。CASEの流れに食らい付くためには、お金がかかる。生産の効率化などで収益性を高める取り組みが、部品メーカーの生き残りを左右する。(西沢亮、山岸渉、国広伽奈子が担当しました)

日刊工業新聞2021年6月17日

編集部のおすすめ