【ディープテックを追え】レアメタル不要の水素活用へ、「青色顔料」が挑む夢

#1 AZUL Energy

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「2050年までにカーボンニュートラルを実現する」―。菅義偉首相の宣言を号砲に、産業界は次世代エネルギーの活用を加速させている。自動車においては急速なEVシフト、さらにその先にあるのは水素を活用した燃料電池車(FCV)の実装だ。

そんな中、懸念されるのは電池で使うレアメタルの枯渇だ。現在広く2次電池で使われるリチウムや、燃料電池で使われる白金などは、産出箇所が偏在する。今後、水素のエネルギー利用が広がると、価格の上昇などを引き起こし、安定供給の妨げになりかねない。

そんなピンチをチャンスに変える、レアメタル代替素材を開発するベンチャーが数々生まれている。

宇宙船を開発する米スペースX、バイオベンチャーのユーグレナ-。いずれも科学的発見や技術革新を通じて社会問題の解決につなげようとする企業で、こうした取り組みはディープテックと呼ばれる。日本でディープテックに挑戦する企業を追った。
伊藤社長

白金代替、燃料電池に狙い

「レアメタルに依存しない社会を作っていきたい」。こう語るのは、東北大学発のスタートアップ、AZUL Energy(アジュールエナジー、宮城県仙台市)の伊藤晃寿社長。同社が開発した素材「AZUL」は、白金やマンガンなどの代替として使用できる。同素材は青色顔料と炭素などから作る。帝人や日清紡が研究するカーボンアロイなど競合素材も存在するが、「熱処理を施すカーボンアロイよりも、特別な処理を必要とせず、コスト競争力はある」という。

同素材を触媒として利用する最大の魅力はコスト低減だ。電池の触媒として使用することで、従来よりも10分の1ほどの価格で触媒効果を持たせることができる。さらに人体への害が少なく、耐久性も高い。アルカリ性や中性の電解液では、出力もその他の触媒と比べても遜色ない性能だという。

同社が開発する素材「AZUL」(写真は提供)

同素材は取締役も務める、東北大材料科学高等研究所の藪浩准教授のチームが研究中の青色顔料を燃料電池の触媒効果を発見したことがきっかけ。共同研究で親交のあった伊藤社長に話を持ちかけ、2019年、起業へ至った。

同大学在籍時、太陽光発電の研究を通じて、電池への見識があった伊藤社長。「この発見は燃料電池へ大きなインパクトを与えられる可能性を感じた」と当時を振り返る。在籍していた富士フイルムを退職し、同社への参加を決意。「大企業では需要がある分野の研究が中心になる。大学の成果をベンチャーが市場に打ち出し、研究開発へ助走をつけたい」と意欲を燃やす。

燃料電池は水素と酸素を化学反応させ、電力を生み出す。その際に用いる触媒が白金だ。水素と酸素の化学反応では、低温では反応が鈍くなってしまう。そこで燃料電池は白金を使用した電極を配置。それにより高温による化学反応を白金が手助けする。

燃料電池の模式図

レアメタルの供給リスク

ただ、レアメタルである白金の資源状況は芳しくない。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)によると、FCV1台に使用される白金量は60gから150gほどとされる。しかし、世界の年間白金生産量は180tほどと言われ、産出国は南アフリカやロシアなど一部に限られる。生産量すべてをFCVに使用しても、120万台から300万台ほどの生産にしか対応できない。さらに白金の推定埋蔵量は3万6千tとされており、リサイクルをしても持続的な利用には不十分だ。今後、白金などのレアメタルの利用が世界中でますます進めば、価格の上昇は必至だ。同社の素材は価格や安定供給の問題を解決する可能性を秘めている。

一方、課題も見える。アルカリ性や中性の電解質では、実装できるレベルの電気出力を示す。しかし、最も実用化に近いとされる酸性の電解質では、白金の出力には劣る。

伊藤社長は今の性能ではFCVに搭載するのは難しいとしながらも、「家庭用燃料電池『エネファーム』やフォークリフトでは、コストを下げることは大きな競争要因になる」と用途を狙い撃ちし、早期の活用を見据える。さらに、同社が取り組むのは燃料電池だけではない。空気中の酸素から電力を生み出す空気電池だ。

中期的には空気電池にも応用

2次電池では、正極と負極の間をイオンが行き来することで電力をもたらす。そのため電池内に正極活物質と負極活物質を均等に配置しなければならない。空気電池では空気中の酸素を正極活物質として利用する。正極活物質を電池内に内包する必要がなく、これまでと同じ大きさでエネルギー密度を増加させることができる。ただ、現在は限られた用途でしか使われていない。原因は主に正極用の触媒として採用されるマンガンにある。

マンガンは人の体内に入ると中毒症状などを引き起こす。そのため、身体の密着するヘルスケア製品やウェアラブル端末での利用が進んでいない。同社は人体への安全性にも優れた同素材を正極に使ったシート型の空気電池を共同開発。22年中の量産を目指している。万が一、液漏れを起こした場合、発火などの危険性も減らすことができる。心電図や血糖値、皮膚の状態を計測するウェアラブルのヘルスケア製品での利用を想定する。

もちろん、研究を進めていく上で、懸念になるのは資金と協力企業探しだ。ベンチャーキャピタルに声かけをしても、「需要が今存在していない分野への資金供給は難しいという返答は珍しくない」(伊藤社長)。同社の技術を量産化するための協力企業の開拓も必要だ。それでも中期では空気電池の製品応用、長期では燃料電池触媒の実用化を打ち出し、「投資を募り、開発を加速していきたい」と展望を話す。

伊藤社長は「東北で生まれた技術だからこそ、クリーン社会への実現に寄与する意味がある」と力を込める。地球の青空を守るための、挑戦は始まったばかりだ。

この連載では、「ディープテック」と呼ばれる先端テクノロジーの事業化を目指す企業を掲載します。
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COMMENT

小林健人
デジタルメディア局

今回からディープテックをテーマに毎週月曜日、1社の技術について掲載します。 2021年に入り、カーボンニュートラルは努力目標ではなく、確実に達成しなければならない目標に変わりつつあります。 今回掲載した素材「AZUL」は、水素利用という最も「熱い」テーマとも言えます。 ただ、用途面で競合する企業も存在し、価格やエネルギー効率などの面で差別化を図れるかが重要なポイントです。 伊藤社長自身も、「FCVへの導入には性能の向上が必要」と語っていました。 ただ、自動車という性能と安全性が求められる分野で採用されれば、一気にレアメタル代替素材が普及するでしょう。 今後の電池の技術だけではなく、素材にも注目です。

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