「判断先送りの経営者がいる企業は市場から消える」。“脱炭素”宣言、前向きなのはどこ?

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2050年に温室効果ガスの排出を実質ゼロにする脱炭素(カーボンニュートラル)を目指すと宣言する企業が増えている。菅義偉首相が排出ゼロの達成時期を「50年」と表明した20年10月以降も宣言が続き、脱炭素目標が潮流となった。今後は脱炭素への本気度が問われることになる。目標を絵に描いた餅にしないためにも、企業には排出ゼロへの具体的な行動が求められる。

達成―前倒しに意欲

菅首相の表明以降、三井不動産などが「50年ゼロ目標」を相次ぎ発表した。13年度比85%減を掲げていたデンカは、政府方針を受けて目標をゼロへ強化。一方、住友大阪セメントは20年末のゼロ目標公表を目指して準備を進めてきたが、結果的に首相の表明と時期が重なったという。

温暖化対策の国際ルール「パリ協定」がスタートしたことを背景に、もともと20年は脱炭素目標の策定ラッシュが起きていた。シチズン時計は4月、事業所の運営に伴う二酸化炭素(CO2)排出を50年までにゼロにするビジョンを制定した。積水化学工業も8月、王子ホールディングス(HD)も10月に50年ゼロ目標を公表した。

数年前まで脱炭素宣言は少数派だった。17年時点ではソニーやリコー、積水ハウス、NEC、富士通、パナソニック、川崎重工業など一部企業にとどまっていたが、イオンがこの動きに続いた18年から各業界に広がった。

化学業界では、富士フイルムHDや帝人も50年ゼロを目指す方針を打ち出した。三井化学は20年11月、製品の供給によって社会のCO2削減に貢献した成果も入れて、自社の排出量をゼロ化すると宣言。トヨタ自動車やホンダ、いすゞ自動車、ブリヂストンなど自動車関連各社も脱炭素を目指す。

50年よりも前倒しでの達成を掲げる動きも出てきた。日立製作所やアスクルは自社の事業所などの運営に関連した排出を30年までにゼロ化する。デンソーも35年を目標に定めた。三菱ガス化学の藤井政志社長は「50年よりも前にカーボンニュートラルを実現したい」と語る。

求められる行動

脱炭素目標を主流に押し上げた要因に金融業界の動向がある。環境・社会・企業統治の情報から企業を選ぶESG投資は世界全体で30兆ドル規模に拡大している。投資家にとって排出ゼロは分かりやすく、成長力を備えた企業として評価できる。企業も成長資金を呼び込める。20年10月、仏アクサグループや日興アセットマネジメントなど137機関は、世界の巨大企業1800社に50年ゼロ目標を設定するよう要求。対象となった企業の年間排出量の合計は、世界全体の25%に相当する。金融機関は頻発する自然災害が経済危機を招くと危惧し、企業に対策を働きかけている。

パリ協定は産業革命前からの気温上昇を2度C未満に抑える目標を掲げる。だが、1度C上昇した現状でも温暖化による自然災害が多発。そこで1・5度C未満を目指す国際世論が沸き起こった。科学者が参加する国連機関は1・5度C達成には50年の脱炭素が不可欠と報告。すでに120国・地域以上が50年ゼロを表明している。国内でも200の自治体がCO2ゼロ宣言をしており、脱炭素への官民の足並みがそろった。科学者は1・5度Cの確実な達成には30年に10年比45%減が必要としており、企業にも同レベルの急ピッチでの削減が迫られる。

海外NGOなどはこの削減ペースと合致する企業目標を認定。世界で272社が認定済みで、国別では米国の54社に対し、日本企業は16社。目標を掲げても具体的な行動を示さないと“環境先進企業”の称号を獲得できない。企業の本気度を評価する英シンクタンクも登場。ESG投資の対象となる上場企業ほど、投資家から厳しい視線にさらされる。

温暖化対策を訴えてきた企業・自治体のグループ「気候変動イニシアティブ」の末吉竹二郎代表は「将来を考えず判断を先送りする経営者がいる企業は、市場から消える」とし、脱炭素への早期の移行を訴える。

日刊工業新聞2020年1月18日

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