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バイデン政権に日本の産業界は何を期待?環境や対中関係に強い関心

バイデン政権に日本の産業界は何を期待?環境や対中関係に強い関心

バイデン大統領とカマラ・ハリス副大統領

バイデン米大統領就任で、温暖化対策の国際的枠組み「パリ協定」復帰など環境・エネルギー政策は大きく転換しそうだ。トランプ前政権で悪化した米中関係をはじめ、通商政策の行方も注視される。日本の産業界はどう見る―。

環境対応アクセル EV普及加速、競争激化も

三菱ケミカルホールディングス(HD)の越智仁社長は「パリ協定復帰は変化だが、もともと米国の環境政策は州政府が進めている。米国各州の動きは日本より進んでおり、引き続き対応する」と指摘。三井化学の橋本修社長は「世界全体で環境対応へドライブがかかる。昔は収益性が難しく進まなかった環境技術の開発も外部と連携で完成させる好機にしたい」と意欲を見せる。

日立造船の三野禎男社長は「パリ協定復帰で脱炭素化の施策が積極化される。(環境対応加速の)方向性が定まるのでは」と見通す。同社子会社がカリフォルニア州でバイオガス発電施設を運営しており、「クリーンエネルギーへの投資も増える」と新政権発足を追い風にしたい考えだ。

日本製紙連合会の野沢徹会長は20日の会見で「(バイデン大統領の)グリーン政策に注視している。(日本も)当業界を含めオールジャパンでやらないと間に合わない」と述べた。

トランプ政権下で大型車シフトが進んだ米自動車業界では、環境規制強化でハイブリッド車(HV)を得意とする日系車メーカーにもプラスとなりそうだ。ただ、新政権は電気自動車(EV)普及に向けた政策を掲げており、米テスラや米ゼネラル・モーターズ(GM)などとの競争激化も予想される。

トヨタの超小型EV「シーポッド」

日立建機は「エネルギー分野、とりわけ石炭事業者への規制が強まる」と見る。石炭産業の不振は鉱山機械の売り上げに影響する。このため、EV化などで活況が予想される銅やニッケル鉱山向けの営業を強化する方針。住友建機も電動ショベルや省エネルギーショベルへの流れが不可避と見て開発を強化する。

シェールガス開発の行方注目

新政権発足が世界のエネルギー市場に影響を及ぼす要素は気候変動対策、シェール開発政策、イランなど中東外交と大きく三つが考えられる。特に対イラン外交を転換し同国の核合意復帰が現実になれば原油市場への影響は大きい。供給量が増し、価格の下押し圧力が働く。ただ、イランがすぐに対話に戻るハードルは高く、交渉の行方も不透明感が強い。

シェール開発を規制するか否かも注目される。重要技術である水圧破砕法(フラッキング)の禁止について言及しているが、対象は連邦政府所有地に限定している。シェールは米国のエネルギー安全保障政策、経済政策の要であり、本質的に否定的な姿勢をとるのは難しいという見方もある。三菱ガス化学の藤井政志社長は「環境政策を進めるとみられる中、シェールガス開発に対する方針が読めない。逆風の可能性もある」と懸念する。

日本工作機械工業会の飯村幸生会長(芝浦機械会長)は「グリーン投資が積極化される一方で、シェールガス関連などのビジネスが後退する可能性がある。米国でのビジネスが従来と変わり、別の需要が明確に出てくる」と予見する。

通商、緊張続く ビジネスへの影響警戒

米中関係について、伊藤忠商事の鈴木善久社長は「米国の中国への厳しい姿勢は変わらない」と指摘。「若干の歩み寄りはあるかもしれないが、あまり進展はないのではないか」と予想する。三井物産の安永竜夫社長は「(米国が)自由貿易の枠組みに戻ってくることを期待」する。丸紅の柿木真澄社長は「サプライチェーン(供給網)が相当に入り組んでいる。国交断絶のような事態までにはならない」と見通す。

京セラの谷本秀夫社長は「今のところ米中関係が急に変わる事はないとみている。極端に当社のビジネスに影響はない」とし、SCREENHDの広江敏朗社長最高経営責任者(CEO)は「実際のビジネスでどう影響するのか予想できない。今はそれに対して適時対応していくしかない」と言い切る。

住友重機械工業の下村真司社長は「米国内では中国を押さえつけていくしかない、という考え方が主流のようだ」と推察。日立造船の三野社長は「(対中国の強硬姿勢は)あまり変化がなく米中摩擦も継続する」とし、パイオラックスの島津幸彦社長も「(米中関係は)変わらない」とみる。

エイチワンは中国で生産する北米向けの金型や設備に今も25%の関税がかかっている。金田敦社長は「これでは競争力がなくなってしまう。関税の変化を注視するが、しばらく時間がかかると思う」との見方を示す。

鉄鋼など輸入制限措置見直しを要請(イメージ)

保護貿易の緩和要請

米中関係とともに、米国の保護貿易も当面変わらないとの見方が大勢だ。日本鉄鋼連盟は米通商拡大法232条(国防条項)に基づく鉄鋼・アルミニウムの輸入制限措置の見直しを求めている。鉄連の橋本英二会長(日本製鉄社長)は「この追加関税は例外(適用除外)が認められているとはいえ、不合理な措置であり、顧客とともに『米国経済にとってマイナス』との主張を引き続き展開していく」という。

三菱ケミカルHDの越智社長は「米国の中産階級は落ち込んでおり、保護貿易の動きをあえて転換しないのではないか」と投げかけ、「企業としては、中国は中国、米国は米国で現地法人の成長を図り、リスクを下げる必要がある」と主張する。

日立製作所の東原敏昭社長は「大国間の緊張関係など地政学的リスクは解消しない。我々は常にアンテナを高くしてグローバル経営を推進する必要がある」と力を込める。

財界、世界経済・国際秩序の回復を

経団連の中西宏明会長はバイデン政権発足を受けて「改めて国内の結束を図り、世界第一の大国として輝きを取り戻してほしい」とのコメント。新型コロナウイルス感染症で落ち込んだ世界経済の回復と国際秩序の再構築が世界共通の課題として「解決のためには米国の力が必要だ」とした。パリ協定復帰については、「気候変動問題解決への強い決意を示すもの」と評価した。

日本商工会議所の三村明夫会頭は「多国間主義や法の支配を重視する新大統領として、強いリーダーシップを発揮することを期待する」とコメントした。コロナ禍や気候変動問題の対応のために「各国が協調して対応する姿勢を積極的に示してほしい」とした。

経済同友会の桜田謙悟代表幹事も「新政権による国際協調主義への転換を歓迎する」とした上で、「米国が民主主義と市場経済を推進するリーダーとして復権し、再び国際社会の平和と繁栄をけん引していくことを期待する」とコメントした。

日刊工業新聞2021年1月21日

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