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失敗時のリスクを軽減!「出向起業」普及を国が後押し

経済産業省は、大企業の人材が外部資金を集めて出向状態で起業する「出向起業」の補助事業を公募している。2020年度には9社に補助金を拠出し創業を支援するなど、事業が軌道に乗ってきた。足元では100件超の提案や連絡が来ており、関心を寄せる大企業人材は少なくない。今後、経産省は大企業に対し、出向起業に関する諸問題の解決策を示した手引書を配布し普及促進に努める考えだ。

出向起業は大企業人材が出向状態を保ちつつ、個人資産や外部資金を投入し、出向元企業との資本関係がない形で起業する新しい仕組み。起業家は身分が保障されるため、失敗時のリスクを軽減できる。

一方、大企業は資本関係がないため、業績への影響がなく、優れた人材を確保しながら起業経験を積ませることが可能だ。経産省は、過度なリスクを嫌う日本人の気質に合致すると判断し、支援を強化している。

すでに採択した企業には、シニア女性の体調管理をサポートするTRULY(東京都渋谷区)やイヤホン型脳波計を開発するCyberneX(同大田区)、不動産業界のデジタル変革(DX)を支援するTRUSTART(同港区)などがある。コロナ禍で起業環境が厳しくなる中、ある起業家は「迷いはあったが、社外に出て専念できる環境を用意してもらった」と出向起業の魅力を語る。

具体的な補助内容は500万―1000万円を上限に、新規事業の創出に必要な事業費の2分の1を補助する予定。支援する内容は試作品開発の事業費や、起業準備段階の実証費用など。前回の事業に比べて上限を2倍に引き上げており、開発費が増えがちなハードウエアメーカーへのサポートを拡充した。

また、出向起業という新しいスキームに対し疑問や悩みを持つ企業も多いため、経産省は問題解決につながる手引書も用意した。例えば出向する社員や事業の選定については、投資家ら有識者による外部評価を活用することも一案と記載。また、出向した社員の給与を出向元が支払う際の寄付金課税の問題は、出向先と出向元の給与差を補填する金額には同課税が適用されないと記した。

コロナ禍でリスクの高い新規事業を敬遠する傾向が強まり、大企業によるベンチャー投資の機運が停滞している。一方、出向起業のスキームは低リスクでの挑戦が可能だ。経産省は「新型コロナウイルスの影響で不確実性が高まる中、起業に踏み切れない人の背中を押す政策になる」としている。

日刊工業新聞2021年4月30日

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