リスクを嫌がる日本人に“出向起業”のススメ!国が春に50社公募

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経済産業省は、大企業の人材が外部資金を集め、出向状態で起業する“出向起業”への支援に乗り出す。大企業は業績影響を最小化して新規事業を創出でき、人材育成にもなる。一方、社員は大企業に籍を置いた状態で起業に挑戦でき、失敗時のリスクを減らせる。経産省は出向起業のスキームが過度なリスクを嫌う日本人の気質に合致すると判断。今春に起業家の公募を予定する。

日本の大企業は堅実性を重視するため、不確実な新規事業を避ける傾向が強い。一方、大企業人材の多くは起業したい思いがあっても家族にリスクを負わせることに躊躇(ちゅうちょ)し、離職することに二の足を踏んでいる。結果、日本は大企業の中に優れた人材やアイデアがあるにもかかわらず、欧米に比べて新規事業やスタートアップが生まれにくい状況に陥っている。

経産省が提唱する出向起業は、こうした日本ならではの課題を解決するスキームだ。社員はベンチャーキャピタル(VC)など外部から資金を調達し、在籍する大企業から出向した形で起業する。大企業は資本関係を極力なくすことで業績への影響を最小化しつつ、優れた社員を確保しながら新規事業を創出したり、経営の経験を積ませたりできる。一方、社員も身分が保障された形で、しがらみなく野心的な事業に着手できる。

経産省は出向起業を後押しするため、新規事業に必要な試作品開発の事業費や、起業準備段階の実証に対して支援する。対象の条件として出向元企業の資本参加は容認するものの、株式保有率は10―20%以下で調整する。起業家は補助金に加え、経産省のお墨付きを取得でき、VCなどと円滑に交渉できる。今後、事務局を選定した上で4月ごろに公募する予定。今回の事業を通じ、出向起業数で50社の創出を目指す。

“出向起業”経産省が支援 新規事業創出に新たな解

経済産業省が“出向起業”を提唱する背景には、リスクを過度に警戒する日本の気質がある。大企業は不確実な事業を避ける傾向が強く、社員も組織から独立して起業する意欲に乏しい。一方、出向起業はセーフティーネット(安全網)を備えた事業創出手法であり、大企業と社員の双方にとって利便性や安全性が高い。経産省は日本特有の課題に一つの解を与えた格好だ。

経済協力開発機構(OECD)によると、2012―14年に製造業が新製品・サービスを投入した割合はドイツが18・8%、米国が12・7%であるのに対し、日本は9・9%にとどまった。またM&A(合併・買収)で新規事業(スタートアップ)を取り込む動きについても、米国が18年に1473件、欧州が704件の買収を実施したが、日本は15件だったという。

日本から新規事業が生まれにくい要因の一つに、大企業人材がリスクを取ることの難しさがある。米国では事業に失敗しても再起できる潤沢な資金調達環境があるが、日本では不十分とされる。家族を持つ社員にとって、離職して起業するのは命がけのギャンブルに近い。また、大企業が新規事業の子会社を設立することはあるが、親会社への業績影響を危惧し、野心的な事業を避ける傾向にある。

出向起業は起業家の身分保障と出向元企業の安定経営を両立する手法であり、日本人に適した形態と言える。新規事業が成功すれば出向元は協業や買収を通じて取り込むことが可能で、仮に失敗しても社員教育として役に立つ。

すでにNECなど数社が実施しているほか、出向起業を支援するベンチャーキャピタル(VC)も存在する。経産省は新しい動きを踏まえ、大企業とVCを橋渡ししたり、起業家を支援したりする意向だ。こうした機運を高めるため、今後は出向起業に関心のある大企業や起業家、VCを幅広く集めて結び付けるような仕掛け作りも求められる。(解説・敷田寛明)

日刊工業新聞2020年2月6日

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起業 経産省

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