タイの日系デパートが風前の灯に…代わって進出を加速させる「ドンドンドンキ」
タイの日系デパートが風前の灯(ともしび)だ。1964年12月10日にタイに初進出した大丸は人気の日本製品がそろう憧れのデパートだった。84年にそごう、東急百貨店は85年、ヤオハンは91年にオープンした。92年2月から営業してきた伊勢丹は2020年8月末で閉店した。
東急百貨店は19年1月末にバンコク郊外にあった店を閉じ、バンコクの高架鉄道駅と連結していた都心の1号店も21年1月31日に閉店した。同店はタイにやってくる外国人観光客を主要ターゲットにしていたがコロナ禍で航空機が止まって顧客が激減した。20年12月から閉店セールをしたが、その期間だけはタイ人で混雑した。
そごうとヤオハンは日本本体の経営破綻から消滅して久しい。そして現在、バンコクに残る日系デパートは18年末に大型商業施設「アイコンサイアム」に入居した高島屋だけ。
これまでに、百貨店を含むショッピングセンターは、セントラル・グループとザ・モール・グループというタイ資本の流通大手間の競争が中心的。伊勢丹が入居していたセントラル・グループの「セントラル・ワールド」は、バンコク中心部に55万平方メートルという超大規模の売り場面積を誇る。そのすぐ近くにザ・モール・グループのサイアムパラゴンもある。
日本人の多くが住むスクムビット通りで最高級のショッピングモールがザ・モール・グループのエンポリアム。1997年7月、アジア通貨危機が発生した月の開店にも関わらず成功。デパートに加え、高級ブランドを売る店も多数入居している複合商業施設として拡張を続けている。道路の反対側の姉妹モールと連結、新モールも建設中で、一帯を「シンガポールのオーチャードロードのようにする」と経営者の鼻息が荒い。
しかし、コロナ禍のタイのデパートは、ネット購入が増えた影響も受けて低迷中。タイの庶民の人気が続いているのは、手ごろな価格で衣食住のほとんどが1カ所でそろうハイパーマーケット。フランス系のカルフールとタイ資本のビッグCのチェーンは、ビール製造などのタイ財閥であるTCCグループが買収した。
タイ最大の華人系財閥CPグループは2020年12月、英国の小売り大手のテスコ社からハイパーマーケットの「テスコ・ロータス」を含む約2000店を106億ドル(1兆円以上)で買収。21年2月から「テスコ」を外し、新ロゴの「Lotus’s」に換えている。
日系コンビニのタイでの展開もさえない。セントラル・グループとほぼ折半合弁だったファミリーマートは、20年5月に日本側保有の全株をタイ側に売却すると発表した。ローソンもタイ財閥のサハ・グループと組んでいるが数百店に満たない。一方で、CPグループがタイで展開するセブンイレブンは1万2000店余を展開中で、21年中に1万3000店以上に拡大する。
しかし、日本の流通業がタイで全滅したわけではない。価格に敏感なタイ人にプロモーション攻勢をかけて成功しているのがドン・キホーテ。タイでは「ドンドンドンキ」名の1号店が19年2月に日本人が多く住む地区にオープン。人気が出たため、コロナ禍の20年3月31日に2号店を開き、3号店を東急百貨店が撤退した場所に6月にもオープンする。
(アジア・ジャーナリスト・松田健)