ニュースイッチ

さよなら日立!三菱重工は“虎の子”の子会社で稼ぐ

火力の三菱パワーを総合エネルギー企業に
さよなら日立!三菱重工は“虎の子”の子会社で稼ぐ

高砂工場(兵庫県)のGTCC実証発電設備

三菱重工業は1日、日立製作所と共同出資の火力発電システム会社を完全子会社化し、新社名「三菱パワー」として始動させる。三菱重工の利益の大半を稼ぐ同システムの収益力をすべて取り込むとともに、三菱重工のグループ会社との連携を加速する。ただ、環境問題を背景に石炭火力発電への逆風が強まっており、需要が先細りする可能性がある。当面、保守などのサービスで収益を確保しつつ、水素分野に成長への布石を打つ。(孝志勇輔)

火力事業、三菱重工が完全子会社化

三菱重工と日立は2014年に火力発電システム事業を統合し共同出資の三菱日立パワーシステムズ(MHPS)を設立した。両社のタービンやボイラの技術面で融合を推進。大型ガスタービンの世界シェアは約3割と、米ゼネラル・エレクトリック(GE)と独シーメンスを抑えて世界トップ。ガスタービン・コンバインドサイクル(GTCC)の発電効率も世界最高水準という。三菱重工、日立がそれぞれ対応していた保守をMHPSが引き受けることで業務効率が高まった。

ところが南アフリカ共和国での火力発電関連の案件をめぐり、両社の間に損失負担問題が発生。仲裁手続きでの協議を経て、19年末に和解した。これにより日立が保有するMHPSの全株式35%を三菱重工に引き渡すとともに2000億円を同社に支払うことを決めた。三菱重工は完全子会社化により日立の技術者を取り込む一方、日立は火力発電システムから事実上手を引く。

国産ジェット旅客機「スペースジェット」事業の損失で業績が悪化している三菱重工にとって、三菱パワーは“虎の子”だ。三菱重工の21年3月期事業損益がトントンの見通しなのは、航空・防衛・宇宙部門がコロナ禍の影響で900億円の赤字ながらも、三菱パワーを含むエナジー部門が1000億円の黒字を確保するのが大きい。航空機分野の収益が落ち込み、“伝統の原動機”が再び稼ぎ頭になる格好。「(三菱パワーを)火力発電設備の専業から総合エネルギー企業に発展させる」(泉沢清次社長)方針だ。

環境問題―グループ連携加速

三菱重工は今後、三菱パワーとグループ各社との連携を本格化させる。事業面での相乗効果を引き出す相手として、まず挙がるのが三菱重工エンジニアリング(横浜市西区)だ。二酸化炭素(CO2)の回収プラントなど環境対応の技術を持ち三菱パワーのビジネスモデルとの親和性が十分に見込める。両社は早速、情報共有を進めている。

温暖化への危機感が世界的に高まり、機関投資家はESG(環境・社会・企業統治)を重視し、化石燃料を利用する産業への投資から撤退を表明する資産運用機関も増えている。大和総研の太田珠美SDGsコンサルティング室長は「新型コロナウイルス収束後の経済の立て直しに向けて『脱炭素化』がより重視される」と指摘する。

三菱パワーは始動に合わせて、エネルギーの脱炭素化を進める姿勢を鮮明にする。経済産業省が発電効率の低い石炭火力発電100基程度を30年度までに休廃止する方針を打ち出したこともあり、事業構造を見直さざるを得ない。そこで見据えているのが水素の利活用だ。

三菱パワーの高砂工場(兵庫県)で手がけているガスタービン

火力・再生エネ共存 米で水素100万kW貯蔵

岩塩空洞を開発・運営する米国企業と提携し、ユタ州の岩塩空洞に再生可能エネルギー由来の水素をはじめ100万キロワットのエネルギーを貯蔵する計画を進めている。さらに同州で水素を使うGTCC向けガスタービンを受注した。貯蔵している水素の発電への利用を見込んでいる。「水素の生産量が増え、コストが下がることで、(発電設備での)専焼に必要な水素を確保できる」(河相健三菱パワー社長)とみている。

また石炭をガス化し、ガスタービンと蒸気タービンを稼働させて発電する石炭ガス化複合発電(IGCC)も、従来の石炭火力よりCO2排出量を低減するだけでなく、ガス化技術の応用で水素の生成につながる。ガス化炉から出てくるガスに対するCO2の分離・回収を通じて水素が得られ、燃料電池などへの供給が見込める。IGCCにより老朽化した火力発電の更新需要を取り込むのに加え、「脱炭素化して水素を作れる」(藤井貴IGCCプロセスグループ長)ことで、ガス化技術の用途が広がる。

福島県いわき市で受注したIGCC設備

ライバルの動向をめぐっては、シーメンスがエネルギー事業の分社化を決断し、新会社が9月末に上場する。GEも減損損失などで人員削減を迫られた。三菱パワーも構造改革を進めており、火力発電と再生エネが共存する戦略で打開を図る。

インタビュー/三菱パワー社長・河相健氏 脱炭素化、流れに乗る

河相健社長

河相健社長に今後の展開を聞いた。

―三菱重工による完全子会社化でグループ各社との連携が進む見通しです。
「相当なメリットを得られると考えている。分野を横断する形での連携がしやすくなり、三菱重工エンジニアリングとは一体で取り組める。我々と三菱重工本体が持つ技術を活用し、発電設備の効率改善も見込める」

―脱炭素化を重視する方針を打ち出しました。
「火力発電を取り巻く状況が激変し、大きな潮流の脱炭素化への対応が必要だ。GTCCと石炭焚(だ)きのボイラ・タービン、環境装置が柱だが、今後はソリューションを展開する」

―低効率の石炭火力を休廃止する経産省の方針に伴う影響を受ける可能性があります。
「30年以降は(新設が)極端に少なくなることが予想されるが、それまでは保守やGTCCへの更新などが見込める。また火力発電の運用性を高めることで、再生エネ設備にかかる負荷の調整に役立てられる。火力発電と再生エネの“共生”につながる」

―構造改革の進捗(しんちょく)は。
「21年以降に人員を(再配置などで)約3割減らす方針で計画通りに進んでいる。競争力強化に向けて筋肉質な事業体制を目指す」

―コロナの影響は。
「受注は(契約が)後ずれすることが考えられるが、大きな影響が出ないようにする。電力需要は底堅い」

―高砂工場(兵庫県高砂市)内のGTCCの実証発電設備が長期運転を始めました。
「さまざまな検証内容を反映して顧客に設備を納入する。各社と性能をめぐる熾烈(しれつ)な争いが続いているが、実証設備の運用を通じてトラブルの発生を少なくできる」
日刊工業新聞2020年9月1日

編集部のおすすめ