仕入れ先の“声なき声”にも耳を傾けて議論、長引くコロナで変化したトヨタの春闘
仕入れ先との“信頼”議論
大手各社の春の労使交渉(春闘)が終盤を迎えている。会社と労働組合が賃金などを巡り交渉するのが一般的だが、トヨタ自動車は部品メーカー(仕入れ先)に出向した社員の体験も議論に加えた。仕入れ先から直接伝えられることのない“声なき声”に耳を傾け、その声を会社の成長にどう結びつけようとしているのか。春闘の一端を追った。(西沢亮)
「キズなきこと、ブツなきこと、というトヨタからのメッセージは、仕入れ先の現場で多くの廃棄品を生み出していた」。労使交渉1回目の議論の冒頭。組合は研修の一環として部品メーカーに出向した組合員の声を報告した。そこで示されたのは、仕入れ先ではやや過剰と思いながらも、トヨタの品質基準をどう満たすかに追われる現場の実態だった。
佐藤恒治執行役員も問題があるとして渡された別のある樹脂部品の事例を紹介した。一見しただけでは違和感がなかったため、品質管理部門や一次仕入れ先に確認。それでも原因を特定できなかったが、2次仕入れ先が光の加減でようやく見えるわずかなキズを確認し、自主的に出荷を止めていたことが分かった。佐藤執行役員は「我々が全く気づけないところで不良率が高まってしまう。(仕入れ先から)こうした問題を相談してもらえる信頼関係をつくれていない」と、連携して課題を解決していく必要性を訴えた。
こうした議論の背景の一つにコロナ禍がある。トヨタも新型コロナウイルス感染拡大の影響で工場の稼働停止を余儀なくされたが、仕入れ先や販売店などの協力も得ながら事業を再開した。トヨタ労組の西野勝義執行委員長は要求申し入れの際に「私たちを支えてくださっている方々への恩返しのためにも、組合員が成長して力を発揮するために労使で何をすべきか議論したい」と訴えた。トヨタ幹部も現状を自動車関連産業で働く550万人と共に新型コロナと戦っているとし「経済波及効果も大きい車業界が頑張れば絶対に何とかなるとの思いでやっている」と語る。
企業内組合の労使交渉ではトヨタ社内の課題解決に集中すれば良いが、トヨタ幹部は「それで本当に日本のモノづくりを守れるのか」と指摘する。さらに車業界で共に働く仲間から「一生懸命ついていくからトヨタももっと頑張れということで、日本のモノづくりの競争力が高まった方が良い」とも強調。仲間と共に競争力を磨くためにも、春闘では550万人が注目しているという意識で議論しようとしているという。
労使交渉議長の河合満エグゼクティブフェローは「仲間のためにと思うだけではダメで、仲間からトヨタは自分たちのことを考えて頑張ってくれていると感じてもらえることが大切だ」と、働き方を変えて成長につなげたいと一連の議論を総括した。トヨタの労使がどのような形で事業に反映させていくのかが注目される。