「世界に通用する小型車の生産拠点に」(豊田社長)、トヨタの第3拠点・東北での10年

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記者団の取材に応じる豊田社長

小型車の世界的生産拠点へ

東日本大震災から10年。震災を機にトヨタ自動車が東北地方でまいてきた自動車産業の種は、たくましく成長している。車両生産子会社のトヨタ自動車東日本(TMEJ、宮城県大衡村)を軸に、同地のモノづくりをけん引するまでになった。足元では車両生産にとどまらず、福島県で水素事業への参画を表明するなど、未来への青写真も描き始めた。ただ、10年という歳月はあくまで通過点に過ぎない。トヨタは東北の産業振興をさらに支援するため、アクセルを踏み込む。(名古屋編集委員・長塚崇寛)

実業で東北に貢献 ロボ・からくり生産高度化

「お力を貸してください」。震災以来、毎年東北を訪問してきた豊田章男社長は、行く先々でこう話してきた。「トヨタが復興に貢献するには実業しかない」(豊田社長)との思いでTMEJを立ち上げたが、完成車メーカーだけではできることは限られる。「この地の仲間とともに取り組めば、『1+1』が3にも4にもなる」(同)というのが冒頭の言葉の真意だ。

実際、東北3県(岩手・宮城・福島)の製造品出荷額をみると、2019年は震災直前の10年比で約2割増の12兆6000億円で着地。食品などに加え、自動車を含む輸送機器の伸びが顕著で、TMEJの設立は東北に自動車産業を根付かせる原動力となった。豊田社長は「東北を世界に通用する小型車の生産拠点にしたい」と一層の飛躍を期待する。

TMEJは震災の翌年7月に関東自動車工業、セントラル自動車、トヨタ自動車東北の3社を合併して設立。トヨタの本拠地である愛知県、高級車ブランド「レクサス」を生産する九州に次ぐ国内第3の拠点として小型車の生産を担当。宮城大衡工場(宮城県大衡村)で小型ミニバン「シエンタ」や小型スポーツ多目的車(SUV)「ヤリスクロス」などを、岩手工場(岩手県金ケ崎町)で小型車「ヤリス」や小型SUV「C―HR」などを生産する。

「良いクルマづくりの原点は小型車にある」―。豊田社長の持論だ。小型車には小排気量でも快適な走行性能を持たせ、これらを安価に実現することが不可欠。TMEJはコスト管理のシビアな小型車の収益構造を変革するため、さまざまな施策を講じてきた。

その一つがテコの原理などを利用して自動化する「からくり」の導入や、設備の内製化による生産ラインの高度化だ。設備の内製では、市販の産業用ロボットを自社のラインに合わせて改良する取り組みを推進。例えば5軸制御の多関節ロボでは、アームの間に自作した筒状の部品を接合してアームの長さを300ミリメートルほど伸ばしたほか、アームにかかる応力を分散するためアームの形状を流線形に変更するなどした。

改良に用いる素材や形状を詳細に分析し、生産性向上に資する最適な設備の在り方を模索。トヨタのモノづくりを俯瞰(ふかん)する河合満エグゼクティブフェローは、「設備を安くコンパクトに作ろうと試行錯誤している。こうした取り組みがTMEJの競争力を高めている」と目を見張る。

SCM強み ジャストインタイム先鋭化 地産地消の調達に軸足

設立以来、構築に励んできたサプライチェーン(供給網)もTMEJの強みだ。東北は愛知県や九州と異なり、完成車メーカーはTMEJしかなく、部品メーカーは同社1社への供給に集中できる。TMEJはこの利点を生かし「順序生産・順序納入」という手法を導入。約4日前に車両の生産順序を決めて部品メーカーに通達することで、サプライヤーは余分な在庫を持たずに済む。トヨタ生産方式(TPS)の「ジャストインタイム」を先鋭化したもので、「日本でモノづくりをしていく中で強力な武器になる」(豊田社長)という。

取り組みが円滑に回るのも、東北域内での現地調達を強化してきたからだ。11年度に約100拠点だった東北での調達先は、19年度に約170拠点まで増えた。

足元ではトヨタ系の豊田合成やフタバ産業、アイシン精機の子会社などが東北に新工場を建設する計画だ。地産地消の調達に軸足を置いたことで、物流コストの削減などにも寄与。トヨタの課題である小型車の収益改善を着実に進める。

TMEJは生産性向上に向けてロボットの内製化に取り組む

トヨタ車向けの駆動部品を製造する岩機ダイカスト工業(宮城県山元町)の鎌田充志社長は、「からくりなど、お金のかからない生産性向上のやり方をトヨタの現場で勉強させてもらっている」と、地元に自動車メーカーが立地するメリットを強調。トヨタの工場を統括する岡田政道執行役員は「仕入れ先に入り、困り事を改めるよう努力する」とし、地場サプライヤーとの連携をさらに深める構えをみせる。

トヨタ本体もこの10年、強固な調達網の整備を重点戦略に掲げてきた。東日本大震災を契機にサプライチェーンの情報システム「レスキュー」を構築。国内での車両生産に必要な部品・部材の品目数や海外を含めた部品メーカーの情報を一元管理できるようにした。

先ごろ発生した福島県沖地震でも、被災した部品メーカーをつぶさに把握。トヨタグループを挙げて復旧を支援し、車両生産への影響を最小限にとどめた。河合フェローは「これまで多くの災害を経験し、その都度(情報収集の)精度を上げてきた」と説明。今後は「3次・4次サプライヤーの状況まで把握できるようにする」(河合フェロー)考えだ。

豊田社長会見 「TMEJ モノづくりの原動力」 水素社会へ地域連携

3月初旬に東北地方を訪問した豊田社長が、記者団の取材に応じた。主なやりとりは次の通り。

―この10年をどう振り返りますか。

「被災者の気持ちを本当に理解するのは難しいが、やるべきことは『忘れない』ことだと思い、毎年東北を訪れてきた。足元では福島県沖地震もあり、東日本大震災はまだ過去のものではない。ただ、10年を一つの節目に、未来を考えられる時期が来たのではと考える」

―未来に向けた施策として、福島県で水素事業の参画を表明しました。

「水素社会を実現するための一要素である『利活用』の部分で、モビリティー会社は役に立てる。浪江町の水素製造施設『福島水素エネルギー研究フィールド』で作った水素を、福島市など人口30万人規模の都市で活用することを検討している。だがトヨタ単独でプロジェクトを進めるのは不可能だ。他の企業も参加したいと思うような一歩を踏み出したい」

―TMEJの現状をどう見ますか。

「コンパクトカーは決して楽に稼げるクルマではない。その中で、からくりやロボットによる自動化で生産性を高めている。今後は高齢者の活躍など、働き手はますます多様化する。からくりやロボットの有効活用で誰もが働きやすくなるなど、TMEJの取り組みは、日本のモノづくりの原動力となる」

「10年が経過してトヨタの東北地方での自動車出荷額は、当初の500億円から8000億円となり、雇用も増えた。何より、自動車メーカーがなかったこの地にTMEJを作り、地元の協力を得てここまでやってこられたのが1番の成果だ」

日刊工業新聞2021年3月11日

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