コロナをきっかけに自動車業界団体の「連帯」広がる!モノづくりに自然災害対応
自動車産業で業界団体の枠を超えた活動が広がっている。きっかけは新型コロナウイルス感染症への対応だった。2020年4月から始まった自動車関連5団体の連携は現在、モノづくり技術の底上げや自然災害の対応などの領域にも進んでいる。こうした中で7日に政府から2度目の緊急事態宣言が出された。団体同士の“連帯”で培ってきた知見が試される。(日下宗大)
「工場が動き、販売店に笑顔があり、整備業者が車を修理する音が聞こえる。これこそ日本を元気にさせる唯一の方法だ」。20年12月にオンラインで開いた自動車関連5団体トップの会合で、日本自動車工業会(自工会)の豊田章男会長(トヨタ自動車社長)が強調した。
自動車産業は裾野が広い。関連産業も含めた国内の就業者数は約550万人だ。全産業の就労人口の約1割を占める。自動車産業の他産業への生産波及効果は2・5倍で、産業別ではトップレベルにある。これは自動車産業が落ち込むと経済全体に打撃を与えることを意味する。
日本の基幹産業として共同で新型コロナに立ち向かう施策を打ってきた。医療物資の生産支援に始まり、6月には資金繰りに苦しむ部品メーカーなどの資金調達を後押しする枠組みを創設した。各団体の加盟企業が行う感染予防のノウハウも共有してホームページに公開している。
新型コロナの対応で結集したが、これを機に車産業の競争力強化などの分野でも力を合わせる方向で議論が進む。自工会の加盟10社と日本自動車部品工業会(部工会)加盟8社で、車関連企業に生産性向上に向けた支援を進める考えだ。
会合は3回目となり、自動車産業の将来に向けた問題意識を共有するようになってきた。部工会の尾堂真一会長(日本特殊陶業会長)は「電動化といった新しい環境でいろんな選択肢を抱えながら悩んでいるのが実態だ」と部品メーカーの心境を吐露。そのような事業環境の変化に対し部品メーカーへ「しっかりした支援をするのは我々の役目だ」と力を込めた。国連の持続可能な開発目標(SDGs)へのアプローチも提起された。
個社や単体の業界団体では対応できない社会課題にも、連携して取り組むことで一致した。例えば自然災害が発生した際の電動車の活用拡大を進める。被災地域が停電しても電動車の給電機能で電化製品を動かせる。モーターショーなどの機会を捉え、「業界を挙げて困った時に頼りになるモビリティー」(豊田自工会会長)を訴える。
日本自動車販売協会連合会(自販連)はディーラーによる高齢者など交通弱者に対する支援活動を紹介した。連携体制を通して他の工業系団体への協力も求めていく考えだ。
自動車産業はCASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化)といった新技術により産業構造の変化が加速する見通しだ。5団体の連携をリードする自工会は20年10月、環境変化のスピードに応じた組織体制に刷新した。各種委員会をスリム化して迅速に判断できるようにした。事務局の担当区分も変更した。自工会発足以来、約50年ぶりの改革だった。
1年近くたった車関連団体の連携体制で新型コロナ危機への対応と、自動車産業の振興策を練ってきた。ここにきて年末年始に再び新型コロナ感染者が急増。政府は7日、首都圏を対象にした緊急事態宣言を発出した。感染収束に向けてまだまだ予断を許さない状況だ。
コロナ禍が社会に多くの“分断”をもたらす中、自動車産業は“連帯”に向けた動きを強める。豊田自工会会長は12月の会合で「今後もこのようなコミュニケーションを密に」と呼びかけた。「是非とも業界を超えて、また業界団体が心を一つにしていきたい」。