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買われたNECPCがサポートでレノボグループを唸らせるまでの10年

買われたNECPCがサポートでレノボグループを唸らせるまでの10年

改善を進めたレノボの個人向けPC修理ライン

NECがパソコン事業(現NECパーソナルコンピュータ〈NECPC〉)を切り出し、中国レノボグループと合弁会社を設立してから2021年は10年目の節目。その間、NECPCが進化させてきた機能の一つが保守・サポートだ。足元ではこの強みを生かし、法人向けパソコンに付随するサービスの強化に取り組んでいる。保守・サポートを担う群馬事業場(群馬県太田市)を取材し、レノボと歩んだ10年間での進化や、サービス強化の方向性などを探った。(昆梓紗)

コロナ禍の混乱を1カ月で収束

「ここでは16時半になると鐘を鳴らすんですよ」―。NECPCサービス事業本部デポオペレーション小林大地グループマネージャが年季の入ったハンドベルを持ち上げた。修理品が到着してから出荷まで24時間で完了することを原則としている群馬事業場では、最終出荷時間が近づいた16時半に鐘を鳴らす。作業者の集中や意識を高めるためだ。24時間修理完了率は95%を超える。

 
小さいが意外と音が響く

2020年春、群馬事業場も新型コロナウイルス感染症拡大の影響を受けた。パソコンを使用する人が増え、それに伴い修理量が急増。特にレノボ向けコンシューマーラインでは物量が増え、作業が追い付かなくなってしまった。
 だが24時間修理完了率95%の看板は下ろせない。矢継ぎ早に手を打った。
 作業者の能力向上のため、個人の能力指標を見直して足りない技能を伸ばせる仕組みを整えたほか、表彰制度でやる気の底上げを図った。他方、レノボが開発したテストツールを導入し、パソコンごとにパスワードを入力する手間を省いた。こうした人とシステムの両面を強くする取り組みにより、作業効率は1.5倍上昇。コロナ禍による混乱を約1カ月で収束してみせた。
 緊急事態もスピーディーに乗り切った群馬事業場。NECPCの現場力、レノボのグローバル知見という二つの強みが合わさって進化してきた。

お互いを尊重し良さを融合

80年代、一世を風靡(ふうび)したNECのパソコン「PC-98」。84年に設立された群馬事業場はこれを開発、生産する花形部門の一つだった。しかしライバルメーカーの攻勢やパソコンの市場全体の縮小など向かい風を受け、90年代初頭に50%あったNECの国内パソコンシェアは11年には約18%まで下がり、販売台数も縮小した。
 群馬事業場も影響を免れず、02年にサポート拠点に転換した。事業縮小の流れの中で「群馬は不要なのではないか」という声も上がったという。そして11年、NECがパソコン事業でレノボと合弁会社を立ち上げ、傘下の事業会社としてNECPCが誕生した。
 合弁会社はレノボが51%、NECが49%を出資(11年当時)する形で、実質的にNECPCは買われる側だった。しかし、群馬事業場を率いてきた中土井一光執行役員常務は「生き残りのためにレノボを利用するとの姿勢で臨んだ。それ以前から抱いてきた危機感をバネにした」と振り返る。

中土井一光執行役員常務
 NECPCとレノボは異なる強みを持っていた。NECPCは継続的な改善活動と、元開発拠点の強みを生かし早いサイクルで新しい技術を取り入れ現場力を磨いてきた。一方、レノボは開発におけるグローバルな知見と、効率を徹底した高度な費用管理で優位性を持っていた。「お互いを尊重し、両社の異なる特徴を融合させたことが大きな効果を生んだ」と中土井執行役員常務は強調する。

修理センター内に掲げられた標語

群馬事業場にとって大きな転機は16年に訪れた。それ以前は外部ベンダーが手がけていたレノボブランドの個人向け・法人向けパソコンの修理を取り込んだのだ。それまでNECPCは企業向けパソコンの修理を行っていなかったため、ほぼ一からの立ち上げとなったが、それが現場力のさらに高め、レノボとの連携を強化する契機になった。
 例えば現場作業を効率化する「棚番」と呼ぶ仕組み。通常、修理品には受付時に管理ID が付与され、作業者は現場でシステムを参照し管理IDに付随する情報を確認できる。ただ、作業中に伝票に書いてある細かな数字を参照するには手間がかかる。そこで管理IDと作業者をひもづけた棚番を発行し、見やすいように修理品に貼りつけ、作業者の引き継ぎ作業などをスムーズにした。

「棚番」で修理品を紐づける
 またNECPCでは修理に関するノウハウをデータベース化し、社内で共有している。それをレノボパソコンでも作成するようにした。その延長として、修理しにくい箇所をレノボにフィードバックし、部品などの設計改善を促す取り組み「Service for Design」も展開する。「他の機能や価値との兼ね合いもあり、全ての要望が受け入れられるわけではないですが、KPIを持ち取り組んでいます」(小林グループマネージャ)。

サポートからサービスへ

2021年、群馬事業場で新たな施設が近く運営を始める。レノボパソコンのキッティング(あらかじめ顧客仕様にカスタマイズして出荷する作業)を行う「Customer Fulfillment Service Room (CFS Room)」だ。
 ここ数年で徐々に多様な働き方が認められるようになり、パソコンの利用シーンが多様化している。コロナ禍でテレワークやオンライン会議が急速に浸透し、それに拍車がかかった。パソコンメーカーは、同じ機種を同じタイミングで一括提供する従来型ビジネスではユーザー企業の需要を満たせなくなってきた。ハードウエアに付随するサービスの善しあしが競争力を左右する重要な要素になった。
 レノボもパソコンのサブスクリプション(定額制)サービスを始めるなど18年頃からサービス強化にかじを切った。各部門ごとに異なる初期設定で出荷してほしいといった多様な顧客ニーズに応えるため、キッティングサービスは重要機能であり、それを群馬事業場の CFS Room が担う。

群馬事業場はレノボとの協業で保守・サポート力を磨いてきた。それを土台に数年前からNECブランドのパソコンを対象としたキッティングサービスのレベルアップに取り組んできた。小林グループマネージャは「実績があったからこそ、レノボの新たなサービスでも群馬に任せよう、ということになった」と自信を示す。NECPCではほかにも、企業のパソコンなどの資産を管理・保管し、故障時に代替機をすぐに送れるようにするといったアセットマネジメントサービスも行う。キッティングではタブレットも対応し、保護フィルムを貼るなどの細かいニーズにも応えている。

NECのカスタマイズサービスセクション

2011年の危機常態から脱したようにも見える群馬事業場。しかし「3年後、5年後を見据えて危機感を持ち続ける」と中土井執行役員常務は強調する。メーカーの姿勢としては「『品質を上げて修理を減らす』のが目指す方向」(小林グループマネージャ)。修理が減っていくのは必然であり、それをどう補うかは群馬事業場にとって追い続けるテーマ。サービスでどう稼ぐは重要課題だ。一方、パソコン業界を見渡すと日本HPがサブスク「HP Device as a Service」を展開するなど、サービス化は大きなうねりとなっており競争激化が予想される。
 NECPC群馬事業場は保守・サポート拠点という枠組みを超え、レノボグループの手本にもなる「サービスマザーサイト」に脱皮できるか。挑戦は続く。

ニュースイッチオリジナル
昆梓紗
昆梓紗 Kon Azusa デジタルメディア局DX編集部 記者
コロナ禍によって、パソコンの必要性が増加。パソコンが増えれば当然、修理も増えます。修理と一口に言っても、種類は多く、壊れ方も様々。原因を探り、的確に素早く修理する様子には職人技と長年の知見が詰まっていました。広いグラウンドでは毎年夏祭りが開催され、業績が良いと打ち上げ花火が上がるそうですが、「ここ数年は毎年上げられている」と取材時に嬉しそうに教えてくれました。

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