【新型コロナ】ペプチドリーム、オンコリス、ヘリオス、ヒューマンライフコード...創薬ベンチャーの治療薬最前線

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新型コロナウイルス感染症治療薬の開発を目的とした新会社設立について説明するペプチドリームの舛屋圭一副社長(新合弁会社のペプチエイド社長)

新型コロナウイルスの感染拡大が続く中、創薬ベンチャー業界で治療薬を開発する動きが活発だ。意思決定が早く機動力が高い強みを生かし、早期の実用化を目指す。特に重症化に対応できる治療薬が必要とされており、中でも重度の呼吸不全を引き起こす疾患「急性呼吸窮迫症候群(ARDS)」の治療薬を開発する企業が多い。過剰炎症の抑制や血管機能改善を期待する。試行錯誤を続ける各社の動きを追った。

侵入を防ぐ スパイクたんぱく質、無効化

「きちんとした治療薬を皆さまにお届けしたい」―。ペプチドリームなどが新型コロナ治療薬開発を目的として設立した新会社、ペプチエイドの舛屋圭一社長は意気込みを語る。

新型コロナは人の細胞に接着・融合して入り込み、体内で複製して増殖する。その後、体内から出て行って他者に感染する。ペプチドリームは特に接着の過程を重要視する。ウイルスが細胞に接着し、細胞内に侵入するのを防ぐ。

新型コロナは、表面に形状が王冠に似た突起がある。この突起はスパイクたんぱく質でできており、S1とS2、二つの領域に分かれている。同社ではこの両方を無力化する、開発候補化合物の探索に全力を挙げている。

サイズの小さいペプチドであれば変異しない部分を狙える可能性もある。無力化に成功すれば、変異した新型コロナにも対応できる画期的な治療薬となる。一過性ではなく、長期で使える治療薬の開発を目指す。

舛屋社長は「5―10年後にできても意味がない。最短で今年の秋には人での臨床試験に入りたい」と意気込む。まずは一つ、開発候補化合物を決定する計画だ。

このほか、イプシロンモレキュラーエンジニアリング(EME、さいたま市桜区)でも、細胞への接着を防ぐ抗体を研究中だ。ラクダ科由来の小さな抗体「VHH抗体」で、人細胞と新型コロナが接着する前に同ウイルスに接着し、感染を防ぐ。治療薬や診断薬としての活用を目指す。

その他の治療薬 複製抑制や血管機能に着目

一方、複製に着目するのがオンコリスバイオファーマだ。鹿児島大学が出願中の特許を譲り受け、複製を抑制する治療薬「OBP―2001」を開発する。並行してより効果の高い化合物を探索中だ。2年以内の臨床試験入りを目指すとしている。

既存薬では「レムデシビル」が複製を抑制するといわれる。浦田泰生社長は「当社の化合物群もレムデシビルと同等かそれ以上に複製を抑制している。メカニズムは解析中だが、おそらく異なるだろう」と予測する。また同社はより実用的な薬にすべく、点滴薬ではなく経口薬としての提供を検討する。

ワクチンの開発を進めるアンジェスにも動きがある。カナダのバソミューン・セラピューティクスと共同で、中等症から重症の新型コロナ向け治療薬の開発を進める。血管の機能を正常化させる効果が期待される治療薬「AV―001」で呼吸不全を改善する。

中等から重症患者向けにアンジェスが開発中の治療薬「AV―001」

新型コロナは肺などの血流が悪くなることで呼吸不全を起こすことが解明され始めている。重症化してARDSになった際も同様だ。血管機能を改善できれば、症状を抑えられる可能性がある。

既に米国で健康な成人を対象とする第1相臨床試験を開始している。安全性や認容性などを評価し、良好な結果が得られれば米国食品医薬品局(FDA)への緊急使用許可申請を検討する。

複数の工程を経る上症状が多様な感染症において、治療薬は一つでは済まない。状況に応じて適切な薬を選んで使えるのが理想だ。それぞれの治療薬完成が待たれる。

重症化 間葉系細胞、炎症治療に可能性

重症化患者が増え続ける今、新型コロナが重症化した疾患向けの治療薬開発も進む。ヘリオスは、米アサシスが創製した間葉系幹細胞製品「マルチステム」を、ARDSを適応症に国内で開発中だ。肺で起こる過剰炎症を抑える機能が期待される。

同社は2019年から第2相臨床試験を実施。新型コロナの流行で、同肺炎由来のARDSについても臨床試験を実施した。

ヒューマンライフコード(東京都中央区)も、へその緒由来の間葉系細胞を活用し、肺の炎症を抑える。20年12月に第1相臨床試験として患者への投与を開始した。原田雅充社長は「疾患や集中治療に伴い筋力が低下してしまう疾患、サルコペニアに対する予防・治療効果も期待している。新型コロナ由来のARDSから回復した人の後遺症としてもみられる症状。全身炎症が継続している状況と考えれば、治療の可能性があるだろう」と明かす。

現在、欧米ではワクチン接種が始まっている。ただ、ワクチンに期待できるのは感染しにくい、もしくは重症化しにくいといった効果のみ。完全な抑え込みに治療薬は必要不可欠だ。創薬ベンチャーの機動力を生かした早期開発には大きな期待が寄せられる。

DATA/ARDS治療がカギ

国内における新型コロナ感染症の重症化患者および死亡者は増加の一途をたどっている。一定数ARDS患者が含まれること、死亡理由の一つになっていることが推測される。現に中国・武漢における新型コロナの初期症例群に関して発表されたデータでは、入院した患者のうち31―41%の割合でARDSを発症していたという。また死亡例ではARDS合併が54―93%確認されており、重症患者におけるARDS治療の必要性は非常に高い。死亡者を増やさないためにも、ARDS治療薬の開発は一刻を争う。

またワクチンの投与で重症化患者の減少は期待できるが、ゼロにするには治療薬が必要不可欠。早期治療が可能となれば、医療崩壊も防げる。三者ともにともに早期開発が望まれている。創薬ベンチャーの機動力がどこまで生きるか、注目が集まる。

【KEYWORD】 ARDS

急性呼吸窮迫症候群。重症肺炎や外傷などによって炎症性細胞が活性化される疾患。過剰炎症が起きる結果、肺の組織である肺胞や毛細血管に損傷を与える。肺に水がたまり、重度の呼吸不全が引き起こされる。一般的に原因の発生から24―48時間以内に発症するといわれる。発症後の死亡率は全体の30―58%といわれており、極めて予後が悪い。新型コロナ由来の肺炎が重症化した場合にも発症する。治療薬はなく、現在は呼吸器を付けて回復を待つしかない。

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