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日本でも接種迫る!期待が高まる一方で「ワクチンだけでコロナ収束が難しい」理由

日本でも接種迫る!期待が高まる一方で「ワクチンだけでコロナ収束が難しい」理由

透過型電子顕微鏡で撮影した新型コロナ(NIAID−RML提供)

パンデミック(世界的流行)となった新型コロナウイルス感染症が中国の武漢で発生してから1年あまりが経過した。世界の累計感染者数は8000万人に達し、死者数は170万にのぼる。期待される新型コロナワクチンの本格接種もようやく始まった。日本でも米製薬企業ファイザーなどが開発するワクチンの承認申請がされるなど、実用化は目前だ。一方で、ワクチンの接種だけでは収束は難しく、2021年も長期戦が強いられそうだ。

米独2社、製版承認申請

ファイザーと独バイオ企業ビオンテックは、両社が開発する新型コロナワクチンについて日本での製造販売承認を申請した。海外で実施した第3相臨床試験に基づいた申請で、国内において実施する第1/2相臨床試験の結果も2月に提出する見込みだ。申請を受け政府は最優先で審査を進め、21年の早い時期に接種を開始する構えだ。

同ワクチンはすでに欧米での接種が先行する。英国政府は20年12月、ワクチンの安全性と有効性が確認できたとして使用を承認し、世界に先駆けて接種を開始。さらに米国食品医薬品局(FDA)も同ワクチンについて緊急使用許可(EUA)を発令し、接種を開始した。欧州医薬品庁(EMA)も緊急に審査会議を開き、承認した。世界での相次ぐ承認に対応するため、ファイザーとビオンテックは21年末までに最大13億回分のワクチンを世界で生産、供給するとしている。また、米製薬企業モデルナが開発する新型コロナワクチンについても、安全性と有効性が確認できたとしてFDAは使用を認め、接種を開始した。

日本政府は、ファイザーとビオンテック、モデルナのワクチンを合わせて1億7000万回分供給を受ける。欧米で承認取得したワクチンは海外の承認実績を元に国内での使用を認める「特例承認」が適用となり、申請があれば迅速に承認審査を行う姿勢だ。田村憲久厚生労働相は、「3月にワクチン供給を受けることで合意している。その頃に接種開始できるよう目標を持っている」とし、21年前半の接種開始を目指す方針を示す。

接種費用負担など円滑化カギ

目前に迫るワクチンの接種に向け、国内では円滑に接種を行うための整備が進む。政府は、改正予防接種法を12月に参議院本会議で可決・成立し、新型コロナワクチンの接種費用を国が負担することや、健康被害が生じた場合の賠償を製薬企業の代わりに国が負担する契約を結べることなどを盛り込んだ。ワクチン接種を希望する人や供給する企業へ救済措置を講じることで、接種の後押しを狙う。

また政府は、医療関係者や高齢者に対して21年の早期から優先的にワクチンの接種ができるよう、自治体や地域の医療機関と調整を進める。ワクチン接種の対象者は原則として住民票所在地の市町村で実施するとし、接種主体となる市町村は対象者に接種券を発行する。対象者は、ワクチン接種が受けられる医療機関や会場、予約状況などの情報を厚労省の公開サイト「V―SYS」から確認し、必要に応じて接種の予約を行えるように準備する。対象者が定められた場所で一括して接種を受けられる体制を構築し、短期間での効率的な接種を実施する。

さらに今後、複数のワクチンが国内で実用化した場合には、それぞれのワクチンに応じた管理や接種体制が必要となる見込みだ。医療機関や接種対象者が混乱なく対応できるよう、今後きめ細かな準備が政府や自治体に求められる。

ワクチン接種に向け世界各国で具体的に準備が進む一方で、世界保健機関(WHO)は、「ワクチンの接種だけでウイルスを排除することはできない」と警鐘を鳴らす。臨床試験においてワクチンの有効性は確認されたものの、検証期間は数カ月に留まるからだ。接種が始まった後も慎重な検証が必要となる。

北里大学大村智記念研究所特任教授・中山哲夫氏に聞く

新型コロナワクチンの実用化で流行の収束に期待がかかる一方で、ワクチンだけでの押さえ込みは難しいという見方が根強い。感染症や流行の推移に詳しい北里大学大村智記念研究所の中山哲夫特任教授に聞いた。

―実用化が進むmRNAワクチンの有効性についてどのように捉えていますか。

「有効性は高く評価できる。しかし臨床試験では2―3カ月程度の結果しか分かっていない。これから副反応も含めた検証が必要だ。自然に新型コロナに感染した場合、体内で抗体が維持されるのは数週間や半年といった報告があるが、明らかになっていない。ワクチン接種によって作られる抗体の量や体内で維持される期間、重症化率などを長期的に観察していくべきだ」

―大規模に接種ができれば、社会が集団免疫を獲得できますか。

「ワクチンだけで集団免疫を獲得することは難しいと見ている。体内の抗体量に加え、上気道の粘膜で抗体が発現して感染を抑えることが重要だが、粘膜免疫は続きにくい。1918年のスペイン風邪では第3波までにほとんどが感染し集団免疫を獲得したといわれるが、新型コロナの場合は再感染の問題があり、自然感染で集団免疫を獲得しようとしたスウェーデンは失敗した。新型コロナにかからないような生活様式の徹底が有効だろう」

―新興感染症に強い国になるには。

「今回mRNAワクチンは開発が早いと言われるが、これは重症急性呼吸器症候群(SARS)流行の経験が大きい。SARSの流行は自然となくなったが、積み重ねた研究成果を新型コロナワクチンの開発に応用した。流行が下火になっても、感染症やワクチンに関する研究を続けていかなくてはいけない。日本は海外に頼ったが、全てのワクチンの開発がうまくいくとは限らない。国内で研究を続け、開発、生産する体制が必要だ。そのためには、国が主導して国内のワクチン開発を支える仕組みを作るべきだろう」(安川結野)

【データ】第3波、高齢者が増加
 世界の感染者は、これまでに約8000万人、死亡者は約170万人にのぼる。1日の新規感染者はほぼ60万人前後で推移するが、増加傾向にある。特に感染者が多い米国では、毎日の新規感染者が約20万人以上のペースで増加し、累計感染者数が1900万人、死者は30万人を突破した。欧州でも感染者は増加傾向にあり、イギリスやドイツなどでは外出規制が長期化するなど、深刻な事態となっている。
 東京では、1日当たりの新規感染者が2020年12月31日に1000人を超え過去最多を記録。今後も増加が見込まれる。第2波と比較して、高齢の感染者の割合が増加した。政府は移動自粛を呼びかけるも、年末にかけて人の移動が増えることが予想され、さらなる感染拡大が懸念される。入院が必要となる重症患者の増加が続けば医療崩壊を招きかねず、早急な対策が求められる。
【キーワード】<核酸ワクチン>
 核酸ワクチンは、ウイルスの遺伝情報であるデオキシリボ核酸(DNA)やリボ核酸(RNA)を脂質などに包んで投与するワクチン。細胞内で発現した新型コロナのスパイクたんぱく質を免疫細胞が認識し、ウイルスを中和する抗体を作り出す。ワクチンの接種により、重症化を防ぐ効果が期待される。核酸ワクチンは病原性のある生ウイルスを使わないため安全性のリスクが低く、早期開発が可能というメリットがある。知見を持つ海外の製薬企業が開発をリードする。
日刊工業新聞2021年1月4日

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