中小企業の「脱炭素」は加速するか。水産加工会社の気づきは東日本大震災
2020年は脱炭素社会実現への機運が一気に盛り上がり、再生可能エネルギーの主力電源化に向けた議論が政府内で本格化している。大企業だけでなく、中小企業にも利用が広がらないと社会に再生エネは普及しない。再生エネ100%を目指す水産加工業者や脱炭素に貢献するベンチャーの動向から、中小企業が再生エネを導入するメリットや課題を探った。
神奈川県の三浦半島の先端に浮かぶ城ケ島に三崎恵水産(三浦市)の本社がある。主にマグロを加工し、飲食店に販売する。従業員は70人ほどだ。
2月、第二加工場の電力契約を自然電力(福岡市中央区)に切り替え、再生エネ電気の購入を始めた。加工場は冷凍庫となっており、電力消費量が多い。まずは小規模な第二加工場からスタートし、25年までに本社加工場を含めた再生エネ100%達成を目指す。
気候変動、危機実感 SDGs推進
石橋匡光社長は東日本大震災後の電力不足をきっかけにエネルギー問題に関心を持った。「電気がなれけば冷凍ができず商売にならない。『まずい』と思った」と振り返る。12年、屋上に太陽光パネルを設置した。発電は10キロワットなので操業の電気は賄えないが、当時の精いっぱいだった。
その後、台風の襲来もあって気候変動を実感するようになった。「海水温の上昇は顕著。海洋資源がとれなくなる」と危機感を抱く。マグロが減ると同社は売る商品がなくなるからだ。経営基盤を揺るがす気候変動を食い止める機運を盛り上げたいと思い、再生エネ電気の購入を決めた。
クリーンな電気は事業にもプラスになると確信する。天候不順で食材の仕入れに悩む飲食店も再生エネ利用に共感し、取引関係が強固になるからだ。「食品業者が商品をおいしいとPRするのは当然。これからはサステナブル(持続可能)か、どうかで選ばれる」と強調する。
さらに飲食店や企業にも再生エネ電気を紹介し、電気代の一部を地域や社会の課題解決に活用する構想を持つ。どんなに小さな企業でも、毎月支払う電気代で持続可能な開発目標(SDGs)に貢献できる。
「分散する電気を省人化、省力化してまとめる手伝いをしたい」。17年設立のデジタルグリッド(東京都千代田区)の豊田祐介社長は意気込む。同社は各地の太陽光パネルの電気をまとめて調達し、京セラの事業所に届ける実証実験を21年1月から始める。再生エネの電気を選んで購入できる同社のAI技術を活用する。
再生エネ発電所は規模が小さく、各地に分散しているため調達作業は煩雑となる。京セラとの実証でスムーズに調達できれば「電力のプロでなくても、再生エネ電気を購入できるようになる」と話す。
サステナブル経営、取り組み促す政策カギ
21年は脱炭素への動きが加速すると予想される。大企業は環境対応が投資家から評価されるため、再生エネ導入の意欲を持ちやすい。中小企業も取引先からの信頼が動機にはなるが、まだ一部の意欲的な経営者の取り組みにとどまっている。中小企業が報われる制度や、再生エネ普及を支える企業の技術革新を後押しする政策が望まれる。