ホンダジェットが採用で話題の「層流翼」。JAXAが挑む次世代航空機

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層流翼設計効果の検証試験(JAXA2m×2m遷音速風洞)

横流れ不安定

1945年以降、世界の航空旅客輸送量は指数関数的に増加しており、2038年には18年の2倍以上になると予測されていた。今年の春、新型コロナウイルスの感染症が世界中に拡大し、各国が外出制限措置を取るまでは。外出制限により航空需要は激減し、航空業界は世界的に大きな打撃を受けた。

しかし、このような状況だからこそ、航空機の性能向上が強く求められるに違いない。特に、燃費向上や低騒音化など、航空機の環境性向上への要請はこれまで以上に強くなるだろう。

宇宙航空研究開発機構(JAXA)では、これまで機体の低抵抗化技術の一つとして、自然層流翼設計技術の研究開発を進めてきた。自然層流翼とは、特別な装置を用いずに翼形状を工夫することによって、機体表面の流れを摩擦抵抗の小さい状態(層流)を広く維持した翼である。

層流翼は、Honda Jetに適用されたことから広く知られるようになった。ただ、我々がターゲットにしている機体はこれより飛行速度が速く、層流状態の維持が各段に難しい。そのため適用例がない。

航空機は、飛行速度が速いほど主翼の後退角が大きくなり、横流れ不安定と呼ばれる機構が前縁付近で流れを乱すため、一般の翼では層流がほぼ維持できない。さらに、機体表面の粗さにも非常に敏感になるため、翼の平滑化が強く要求される。

逆問題設計法

JAXAでは、この課題に、逆問題設計法を用いて取り組んできた。逆問題設計法は、設計と評価を繰り返すのではなく、理想的な流れ場をあらかじめ設定しそれを達成する形状を設計する手法である。JAXAにおける逆問題設計技術は、二つの優位性を持つ。

一つは、横流れ不安定を独自の「理想的な流れ場」で、特許も取得している。もう一つは、設計システムで、さまざまな制約条件の下、3次元的な設計ループを自動で繰り返す。

これまでJAXAでは、この手法を種々の概念設計に適用し、05年には小型超音速機プロジェクトで飛行実証した。

検証風洞試験

14年からは設計対象を亜音速旅客機に拡張し、技術成熟度を高めてきた。20年度から始まった革新環境航空機技術の研究開発(iGreen)事業では、実機の飛行条件を模擬した風洞試験によって層流翼設計効果を実証することを計画している。

また、機体表面をクリーンに保つ高洗浄性塗料の研究開発や、製造時の粗さ指標の策定なども行う。自然層流設計技術を早く社会実装し、持続可能な社会の実現に貢献していくことが我々の悲願である。

◇航空技術部門航空システム研究ユニット研究領域主幹 徳川直子
境界層の乱流遷移および自然層流翼設計に関する研究に従事。16年より現職。学習院大学客員教授・青山学院大学客員教授。日本航空宇宙学会・日本流体力学会フェロー。日本流体力学会学会誌編集委員長。

日刊工業新聞2020年12月22日

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