【夏野剛】競争力を押し下げる40歳以上の過剰管理職と、多様性のない経営者たち

さらば昭和の人事制度

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慶大政策・メディア研究科特別招聘教授・夏野剛氏

過去25年の日本の生産性がほとんど向上していない原因は政府だけにあるわけではない。国内総生産(GDP)の大半を構成するのは民間企業の経済活動であり、規制が課せられている業種の割合はそれほど大きくない。昭和時代に奇跡とまで言われる高成長を果たした日本の民間企業が、なぜIT化の25年でその生産性を上げられなかったのだろうか。この理由も、人のシステムを変えてこなかったことに起因すると考えられる。

ITやインターネットの普及で最も大きく変化したのは組織と個人のパワーバランスである。昭和の時代に、その効率性を誇った日本企業の生産性の高さは、均一の労働力、安定した雇用、組織優先の力学にあったと言える。一生勤める会社であるからこその「滅私奉公」。早朝から深夜まで会社にいるのも当然。家庭を二の次にしている者が尊敬される社会。会社に都合のよい「会社人間」を量産していくシステム。

その見返りは65歳までの職の保証。会社の業績が悪くなっても失業の心配がない代わりに、会社の業績が目覚ましく向上しても待遇はベア以上には上がらない。それでも安定を志向するのは、組織の中にいなければ情報が入手できず、自分の能力開発もできなかったから。専門家になるためには組織の中にいることが絶対条件だった時代だったとも言える。

ところがネットと検索の普及は個人へのパワーシフトを起こした。ネットは専門的な知識であふれている。一部の基礎科学系を除いては、ほとんどの学術論文はネットで検索可能になった。企業の情報もディスクロージャーの一環で積極的に公開発信されるようになり、以前なら企業秘密ともなり得た研究開発方針も堂々とホームページで開示されている。しかもSNSの普及で、会ったこともない専門家同士が組織を離れて意見交換することも珍しくない。もちろん情報の中にはいい加減なものも多いが、知識がついていけば見分けるのはそれほど難しくない。つまり組織に属さなくても専門家になれる時代が到来したのだ。

こうなると企業の方も、知識や経験がある人を採用するようになる。ということで、21世紀になってからは終身雇用という言葉は少なくとも若者にとってあまり意味をなさなくなってきた。大卒新入社員の3分の1が3年以内に辞めるというデータもある。40歳以下の世代にとっては転職は常にそこにある選択肢となったのだ。

一方、40歳を過ぎても専門性を持てない人の競争力は著しく低下した。もともと興味のないことを仕事と割り切って会社に貢献してきたが、社会で通用する専門性を持つまではいかない。しかし年功序列制度のおかげで管理職にはなった。給与も若い時よりは増えた。しかしITツールを使いこなす若い世代には仕事量では勝てない。といった、実力のない管理職を大量に生み出してしまった。多くの大企業では管理職比率が25%を超え、ひどいところでは40%を超えている。そもそもITの普及で「管理」業務はほとんどシステム化されているのに、管理職が増えているのだから生産性が上がるわけがない。

なぜこんなことになってしまったのか。ひとえに経営者が変革の判断をせずに来てしまったことに起因するだろう。そもそも大企業の経営者自身が一つの会社の中だけで生きてきた人たちで構成されている。つまり組織の力を借りずに専門性を高める、ということを経験したこともなければ、間近にそんな人がいない。

経営陣に多様性がないことが、IT化という環境の大激変に機敏に対応できず、昭和の時代の人事システムをひたすら維持してきたことが生産性向上の大きな障害になっている。ここ数年で急速に進展した働き方改革、企業ガバナンス改革が、生産性の低い大企業の管理職、そして経営陣の意識改革につながっていくことを切に望む。

【略歴】夏野剛(なつの・たけし) 早大政経卒、東京ガス入社。ペンシルバニア大経営大学院卒。NTTドコモ執行役員などを歴任。現在は現職のほかドワンゴ社長、ムービーウォーカー会長、KADOKAWA取締役などを兼任。内閣官房規制改革推進会議委員も務める。神奈川県出身、55歳。

日刊工業新聞2020年12月21日

キーワード
慶応義塾大学 管理職

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