【夏野剛】テクノロジーの社会実装、日本は「成長と文明進化の歴史」に乗り遅れるな

1人当たりのGDP成長率で世界から見劣り

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慶大政策・メディア研究科特別招聘教授・夏野剛氏

【IT社会実装ようやく】

コロナ禍は日本人の常識を大きく変えつつある。リモートワークなど絶対に機能しない、オンラインで営業ができるはずがない、重要な会議は対面でないとまずい、印鑑は日本の文化である、副業兼業など言語道断、などなど決して変わらないと思われていた日本人の常識は、コロナ禍で脆くも崩れ去った。岩盤と言われたオンライン診療やリモート服薬指導も解禁され、長い間実現しなかった電子政府も急速に整備が進められている。私のようにITを専門とする立場から見ると、世界的に当たり前のことが実現していなかった日本がようやくテクノロジーの社会実装に踏み切ったように見える。

そもそもコロナ禍前の日本はそんなにダメだったのか、とよく聞かれる。そんな風には感じない、日本は十分豊かな国だし、生活レベルも高い。日本が遅れているとは思えないけど、という人が大勢だ。

数字を見てみよう。IT革命が始まったのは1996年。この年にヤフージャパンがサービスをスタートしたが、グーグルも楽天もアマゾンも、ネットバンキングも、ネット証券もまだ存在せず、インターネット上のわずかな情報を閲覧する程度のものだった。そもそもこの時点で携帯電話の加入はわずか1170万件。前年の433万件から爆発的に増え始めた頃で、音声通話のみの携帯電話だった。ネット接続ができるようになるのは1999年まで待たなければならない。パソコンの普及率は17%程度で、どの職場でも営業職やバックオフィスでは1人1台の体制はできていなかった。

今やインターネットでできないことはなく、携帯の普及率は100%を超え、パソコン普及率も77%かつ1家庭当たり1・6台という、いつでもどこでも必要な情報を検索し、情報を仕入れ、それを解釈して発信できる社会。いつでもどこでも仕事ができ、コミュニケーションし、成果に結びつけられる社会が実現しているのだ。

経済学の世界では、このような技術の進化は必ず生産性の向上をもたらすとされている。実際に人類の歴史は、技術の進化によってもたらされた生産性の向上が人々を発明や発見に向かわせ、社会が発展し、さらに技術が進化して文明が進化するというプロセスを繰り返してきた。

この20年あまりのITの進化は、過去の技術進化とは比較にならないほど大きな影響を人類に与えている。世界の距離は縮まり、あらゆることがオンラインでできるようになった。仕事の進め方は激変し、何人も何十人もかかってやっていた仕事が1人でできるようになった。この20年、世界と同じくIT革命が起きている日本は、さぞかし生産性が向上したであろう、と思うのが普通である。

【「給料2倍」の威力】

日本のGDP(国内総生産)推移を見てみよう。1996年と2018年の名目GDPを比較すると、日本は3%成長している。22年間で3%。小さいが成長はしている。先進国だからこんなものだろう、と日本人は思いがちだ。しかし、人口も2%増えているから、生産性の指標である1人当たりGDPを見るとほとんど変化がないことに気づく。

一方、ITの勝ち組である米国を見ると同期間でなんと155%も名目GDPが成長し、1人当たりGDPも110%伸びている。ピンとこない人は、給料が2倍になっていると思ってくれていい。この20年以上給与水準が変わらない日本人には想像できないような「成長」社会がこの数字に垣間見える。米国だけではない。フランスは名目GDPが73%(1人当たり55%)、ドイツは58%(同55%)、英国は101%(同84%)、お隣の韓国に至っては178%(同145%)と米国をも上回る成長と生産性を上昇させているのだ。

平成の30年の間、我々は何をしていたのか。遅いということはない。我々は今からでも、この遅れを取り戻さなければいけないのだ。


【略歴】なつの・たけし 早大政経卒、東京ガス入社。ペンシルバニア大経営大学院卒。NTTドコモ執行役員などを歴任。現在は現職のほかドワンゴ社長、ムービーウォーカー会長、KADOKAWA取締役などを兼任。内閣官房規制改革推進会議委員も務める。神奈川県出身、55歳。

日刊工業新聞2020年10月5日

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