初の女性に初の看護系、北里大新学長に聞くコロナ禍の教育道
「生命科学の総合大学」をうたう北里大学。予防医学の基礎を築いた北里柴三郎の精神を受け継ぎ、ノーベル生理学医学賞を受賞した大村智氏が特別栄誉教授を務める。新型コロナウイルス感染症の収束が見えない中、同大初の女性学長で初の看護系出身の島袋香子氏が7月就任した。新型コロナに対する対応や、北里大の教育や研究について聞いた。
―新型コロナに対する治療薬の早期発見を目指して立ち上げたプロジェクトの状況は。
「抗寄生虫薬のイベルメクチンについては新型コロナの治療薬として早期の承認申請を目指していることに変わりはない。学内承認後、厚生労働省の許可が得られたため、医師主導の臨床試験を始めた。ほかには新型コロナに対して漢方治療を提示する取り組みも始めた。新型コロナ感染症のステージを五つに分け、各ステージにおける漢方治療の提案や実施などを行う。本学は日本で最初の漢方医学の総合的な研究機関の東洋医学総合研究所を持つ。豊富な診療経験・研究実績を生かしたい」
―アフターコロナを見据え、社会にどう貢献していきますか。
「新型コロナが今後収束したとしても、その次にどんな感染症がまん延するかは分からない。北里大は伝統的に感染症研究に強みを持っており、未知の感染症に備え予防策を常に考えていきたい」
―コロナ禍での学長就任です。優先的に考えていることは。
「最善な教育をどうすれば学生に提供できるのか。ここから始めている。オンラインのみだった授業を9月から一部の授業で対面を再開した。医療系に多い実験や演習はオンラインでは内容を把握しにくい。全面的な対面は設備的に難しいが、できる授業から対面にしていく。学生もウイルスを教室に持ち込まない努力が必要だ。教員も学生も今はチャレンジの時だ」
―学内の教育・研究については、どうけん引していきますか。
「医療系4学部だけでなく、獣医学や海洋生命科学などの学部もあり、学部が一見雑多にあるようにみえるかもしれない。だが、あるテーマを違う学問領域からみたときに新しい視点で考えられることがある。多様性と統合力を基礎に、学問分野にとらわれない柔軟な教育と多面的な視点による実践的な教育・研究を推進したい」
―付属病院と連携した「チーム医療教育」だけでなく「農医連携教育・研究」も盛んです。
「北里柴三郎博士が予防医学を唱えた『医道論』の考え方にのっとって始めた。人の健康増進と環境保全を追求する農医連携は獣医学部と医学部が中心だが、他学部との連携教育・研究も可能だ。例えば、学内には水の研究者や海洋生物の視点から健康問題を考える研究者もいる。研究と研究をつなぐ力を強化する必要がある。研究を支援する部門を強化していきたい」
―具体的には。
「新たな共同研究の創出や研究者の起業支援、企業のニーズと大学のシーズのマッチング支援だ。起業後の働き方のあり方や、医工連携で製品化した場合の扱いなどの整備を今後、検討したい」
【略歴】
しまぶくろ・きょうこ 79年(昭54)琉球大保健学部(現医学部保健学科)卒。88年北里大看護学部助手。93年北里大院看護学研究科修士課程修了、00年博士後期課程修了。08年北里大教授、14年看護学部長・看護学研究科長。博士(看護学)。沖縄県出身、64歳。
【記者の目/協調性重視し課題に挑む】
島袋学長は沖縄県出身で琉球大学保健学部(現医学部保健学科)で保健学を学んだ。北里大病院に就職した後、教壇に就いた。看護職について島袋学長は「チーム医療の中でコーディネートする役割」とし、「学長として多様な意見を聞きながらさまざまな事案を決断していきたい」と意気込む。協調性を重視し課題に挑む。(山谷逸平)